老化によりマウスの血管内皮幹細胞の内皮細胞生成能力が低下することを明らかに(高倉研がAngiogenesisに発表)

情報伝達分野の清水奨太、内藤尚道および高倉伸幸教授らの研究グループは、加齢に伴い、マウス血管内皮幹細胞(※1)が減少するとともに、その内皮細胞産生能(※2)も低下することを明らかにしました。また、この加齢による内皮細胞産生能の低下が、若齢マウスの環境因子(※3)により改善される可能性を見出しました。

 

【研究成果の概要】

  • 加齢に伴うマウス肝臓の血管内皮細胞の減少や血管の過疎化と同時に、血管内皮幹細胞の減少が認められた。
  • 老齢マウス由来の血管内皮幹細胞を培養したところ、若齢マウスと比較して、血管内皮細胞の産生能が低下していた(図1)。
  • 老齢マウス(レシピエント)に血管内皮幹細胞を移植した場合、老齢マウス(ドナー)由来の血管内皮幹細胞は、若齢マウス由来のものと比較して、血管を形成する能力が低下していた。一方で、若齢マウス(レシピエント)に移植した場合は、若齢および老齢マウス由来の血管内皮幹細胞は、ほぼ同等の血管形成を示した(図2)。
  • 老齢の血管内皮細胞では種々の炎症シグナル(※4)の活性化が認められた。今後、血管内皮幹細胞の加齢性変化との関連性を解析することで、血管内皮幹細胞の機能維持を目標とした新たな抗老化戦略の開発につながることが期待される。

 

幹細胞の枯渇および機能低下は個体の老化を引き起こす主要な原因の一つであるとされており、種々の幹細胞において老化研究が行われています。血管内皮幹細胞は2018年に高倉伸幸教授らの研究グループにより、臓器の血管を長期的に維持し、血管再生に寄与する幹細胞として発見されましたが、その加齢性変化は未解明でした。

今回、研究グループは主に血管内皮幹細胞の内皮細胞産生能に着目して、加齢に伴う変化を解析し、上記の結果を得ました。近年の研究では、血管の過疎化を抑制することでマウスの寿命が延長することが示されています。また、ヒトでもマウスと同様に老化に伴って末梢血管が過疎化することが報告されており、本研究の成果が血管内皮幹細胞を標的とした新たな抗老化戦略の開発へとつながっていくことが期待されます。

 

本研究成果は英国科学誌「Angiogenesis」に2023年8月に公開されました。

タイトル:“Aging impairs the ability of vascular endothelial stem cells to generate endothelial cells in mice”

著者名:Shota Shimizu, Tomohiro Iba, Hisamichi Naito, Fitriana Nur Rahmawati, Hirotaka Konishi, Weizhen Jia, Fumitaka Muramatsu and Nobuyuki Takakura

【用語解説】

※1 血管内皮幹細胞

血管の内腔に存在する血管内皮細胞のうち、幹細胞としての性質を有する細胞集団。組織の血管を長期にわたって維持するとともに、血管の再生にも寄与します。

 

※1 内皮細胞生産脳

血管内皮幹細胞が増殖・分化して、血管内皮細胞を産生する能力。

 

※3 環境因子

幹細胞の周囲に存在し、幹細胞の維持や機能に影響を与える細胞やタンパク質などの総称。

 

※4 炎症シグナル

細菌感染などの組織の炎症に際して、主に白血球から分泌されるサイトカイン(分泌型のタンパク質)によって活性化されるシグナル伝達経路。老化では慢性的な炎症が起こることが報告されています。

 

  • 図1)血管内皮幹細胞の培養実験(コロニーアッセイ)の概要および結果。マウスから分離した血管内皮幹細胞を10日間培養した後に細胞を固定し、血管内皮細胞を紫色で染色しています(CD31免疫染色)。老齢の血管内皮幹細胞は若齢の幹細胞と比較して、血管内皮細胞産生能が低下していました。写真は肝臓の血管内皮幹細胞を用いたものですが、肺でも同様の結果でした。

  • 図2)血管内皮幹細胞の移植実験の概要および結果。細胞が緑色に光るマウス(GFPマウス)から肝臓の血管内皮幹細胞を分離し、血管障害を起こしたマウスの肝臓に移植します。老齢のレシピエント(移植を受けたマウス)の場合、若齢の血管内皮幹細胞の方が老齢の幹細胞よりも、移植された血管内皮幹細胞から形成された緑色の血管が豊富に存在していました(写真下段)。一方、若齢のレシピエントに移植した場合、若齢と老齢の血管内皮幹細胞はほぼ同等の血管形成を示しました(写真上段)。