精子の成熟を制御するスイッチたんぱく質NICOLを発見(伊川研がNat. Commun.誌に発表)

遺伝子機能解析分野の研究グループは、NICOLと名付けたたんぱく質が精子の成熟と雄の生殖能力に必須であることを世界で初めて明らかにしました。

【研究成果のポイント】

  • 精子の成熟※1を制御するたんぱく質NICOLを発見
  • これまで精子成熟を制御するメカニズムの研究は困難だったが、ゲノム編集※2技術を駆使することで可能に
  • 男性避妊薬開発への応用に期待

 

精巣で作られたばかりの精子はまだ受精能力を持っておらず、精巣上体※3と呼ばれる器官へ送られ、そこで「成熟」することでようやく受精能力を獲得します。しかし、精子の形成機構にくらべて精子の成熟機構は解明が進んでいませんでした。

今回、研究グループは、ゲノム編集技術で遺伝子ノックアウト※4マウスを作製することにより、NICOLが精子を成熟させるスイッチとして機能していることを解明しました。研究グループはこれまでに同様なスイッチたんぱく質としてNELL2を同定していましたが、今回の研究でNICOLがスイッチたんぱく質としてNELL2と一緒に機能することも解明しました。これにより、男性不妊のメカニズムの解明や、あらたな設計原理に基づいた男性避妊薬の開発が期待されます。

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本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、4月24日に公開されました。

タイトル:“A small secreted protein NICOL regulates lumicrine-mediated sperm maturation and male fertility”

著者名:Daiji Kiyozumi, Kentaro Shimada, Michael Chalick, Chihiro Emori, Mayo Kodani, Seiya Oura, Taichi Noda, Tsutomu Endo, Martin M. Matzuk, Daniel H. Wreschner, and Masahito Ikawa

DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-023-37984-x

 

<用語説明>

※1精子の成熟

精巣で作られた精子が受精するために必要な能力を獲得すること。

 

※2 ゲノム編集

ゲノム(遺伝子を含む遺伝情報)上の任意の場所で、欠失・挿入などの変異を導入できる遺伝子改変技術のひとつ。

 

※3 精巣上体

精巣から連なった、高度にコイル化した一本の上皮組織の管。この管の中を通過する間に精子は成熟する。

 

※4 遺伝子ノックアウト

遺伝子改変技術により特定の遺伝子の機能を破壊すること。ノックアウト動物を解析することで、生体内での機能を解明することができる。

 

  • スイッチたんぱく質NICOLにより精子成熟機構がオンになった精巣上体(紫色の管様組織)とその作用をうける精子(管の中心付近の水色が精子の頭部)