気管支敗血症菌がアメーバによる捕食を回避する機構を解明(堀口研がMicrobiol. Spectr.誌に発表)
分子細菌学分野のDendi Krisna Nugraha研究員、堀口安彦教授(感染症総合教育研究拠点兼任)らの研究グループは、気管支敗血症菌が哺乳動物に感染する際とは異なる表現型に可逆的に変化することで、原生生物であるアメーバによる捕食を回避し、自然環境中で生存することを明らかとしました。
研究成果のポイント
- アメーバとの共培養により、気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)が顕著に増殖することを発見。
- 気管支敗血症菌はアメーバのターゲットとなる繊維状赤血球凝集素(FHA)等の発現を抑制する表現型に変化することで、捕食を回避していることを解明。
- 本成果により、気管支敗血症菌は自然環境中で生存するために原生生物を利用できることが示唆された。
本研究の内容
気管支敗血症菌はさまざまな哺乳動物や免疫の低下した人に呼吸器感染を起こすことが知られている細菌です。気管支敗血症菌にはBvg+相とBvg‒相と呼ばれる二つの表現型の間を相転換する性質があり、このうちBvg+相は哺乳類への病原性を示す表現型、Bvg‒相は自然環境中での生存に適した表現型とされています。自然環境中では菌がBvg‒相となることで生存し、哺乳動物への感染源となる可能性が指摘されていますが、気管支敗血症菌が環境中でどのように生存しているのかについてはこれまで明らかとされていませんでした。一方、自然環境中には細菌を捕食するアメーバなどの原生生物が広く存在していることが知られています。そこで私たちは、自然環境中での生存戦略として、気管支敗血症菌が原生生物による捕食を回避するメカニズムを有していると考え、その解明を試みました。
気管支敗血症菌をアメーバと共培養して詳しく解析した結果、本菌は単独で培養した場合よりもアメーバ存在下で顕著に増殖すること、アメーバの細胞内では収縮胞(CV)※に侵入して捕食を回避していることが分かりました。さらに、Bvg+相の菌が発現する病原因子である繊維状赤血球凝集素(FHA)や線毛(FIM)は、アメーバが捕食する際の目印になるため、気管支敗血症菌はBvg‒相へと表現型を転換することで、FHAとFIMをアメーバから隠し、捕食を回避していることが明らかとなりました(図)。
本研究により、気管支敗血症菌は、Bvg‒相へと転換することで原生生物による捕食を回避し、自然環境中における宿主として利用している可能性が示唆されました。また本成果は、環境から哺乳動物への感染伝播の問題とその対処法を考える上で有用な知見となり得ます。
本研究成果は、米国科学誌「Microbiology Spectrum」オンライン版に2023年3月27日(月)に公開されました。
タイトル:“Survival of Bordetella bronchiseptica in Acanthamoeba castellanii.”
著者名:Dendi Krisna Nugraha, Takashi Nishida, Yuki Tamaki, Yukihiro Hiramatsu, Hiroyuki Yamaguchi, Yasuhiko Horiguchi
用語説明
※CV:収縮胞
浸透圧の調節に関わる原生生物の細胞小器官