1700029I15Rikは精子と卵の融合に必要な先体膜タンパク質のプロセシングを制御する(伊川研がPNASに発表)

遺伝子機能解析分野のLU Yonggang助教と伊川正人教授らは、精巣特異的なII型膜貫通タンパク質1700029I15Rikが、精子と卵の融合に必要な先体膜糖タンパク質の生合成に必須であることを発見しました。

 

伊川研究室では、これまでに配偶子融合に必須な7つの精子タンパク質 [IZUMO1 (Nature 2005), FIMP (PNAS 2020a), SOF1, TMEM95, SPACA6 (PNAS 2020b), DCST1/2 (Commun Biol 2022)] を発見するなど、哺乳類の受精研究を先駆的に行っています。これらのタンパク質のうち、IZUMO1、TMEM95、SPACA6、DCST1/2は精子先体膜に局在する糖タンパク質です。約30年前、伊川教授は精巣に特異的な小胞体シャペロンであるCalmeginが、精子細胞膜タンパク質のプロセシングと精子受精能に必須であることを報告しましたが(Nature 1997)、Calmeginをノックアウト(KO)しても、精子と卵の融合には影響がないことから、融合に関わる精子タンパク質のプロセシングは未知の独立した経路で処理されていると考えられていました。

 

今回、LU Yonggangらは、円形精子細胞に多く発現する小胞体タンパク質1700029I15Rikが、N型糖鎖修飾に重要なオリゴ糖転移酵素(OST)複合体サブユニットと相互作用し、安定化することによって、先体膜糖タンパク質のプロセシングを特異的に制御していることを見出しました。1700029I15Rik KO雄マウスでは、精子細胞膜タンパク質は精巣では正常に作られますが、その量がKO精子では減少していました。中でも、先に述べたSPACA6の量が著しく低下し、精子が受精能力を失いKO雄は不妊を示しました。なお、1700029I15Rik KO精子では、ミスフォールドタンパク質の異常蓄積により、ユビキチン依存性ER関連分解(ERAD)機構とユビキチン化タンパク質が増加することも分かりました。

 

研究グループは、精子形成過程において、異なる細胞内コンパートメントに移送されるタンパク質の生合成が時空間的に制御されていることを提唱しています。1700029I15Rikはヒトで高度に保存されていることから(C11orf94)、今回の発見は、特発性男性不妊症の病因究明や、非ホルモン避妊法の開発に繋がることがと期待されます。

 

本研究成果は、米国科学誌「PNAS」に2023年2月14日に公開されました。

タイトル:1700029I15Rik orchestrates the biosynthesis of acrosomal membrane proteins required for sperm–egg interaction

著者名:Yonggang Lu, Kentaro Shimada, Shaogeng Tang, Jingjing Zhang, Yo Ogawa, Taichi Noda, Hiroki Shibuya, Masahito Ikawa

 

  • (A)1700029I15RikはOST複合体を安定化し、アクロソーム糖タンパク質のフォールディングを促進する。

  • (B) 精子細胞膜とアクロソーム膜のタンパク質は時空間的に制御されている。