精子の受精能獲得を制御する分子を発見(伊川研がScience Advancesに発表)

遺伝子機能解析分野(伊川研)の研究グループは、精子の受精能獲得に重要なタンパク質FER1L5を発見しました(図1)。

【研究成果のポイント】

  • 精子の受精能獲得に重要なタンパク質FER1L5を発見
  • FER1L5を欠損したマウスを作製したところ、精子は受精能を獲得せず卵子と受精しなかった
  • FER1L5はヒト精子にも存在しており、男性不妊の診断や治療法の開発に繋がると期待

 

雌の生殖路に射出されたばかりの精子には受精能がありません。精子が生殖路を移行中に先体反応(※1)を起こすことで卵子と受精できるようになります。しかし、これまで先体反応の制御機構についてはほとんど分かっていませんでした。

今回、伊川教授らの研究グループは、線虫(※2)の受精に必須のタンパク質として同定されたFER-1に着目しました(図2)。哺乳類であるマウスにもFER-1に似たタンパク質が存在しており、その中で機能未知のFER1L4、FER1L5、FER1L6を解析したところ、FER1L5が先体反応や生殖能力に重要であることを見つけました。FER1L5はヒト精子にも存在することが知られており、本研究成果は男性不妊症の診断や治療法の開発に繋がると期待されます。

 

本研究成果は、米国科学誌「Science Advances」に、2023年1月26日(木)午前4時(日本時間)に公開されました。

タイトル:“Testis-enriched ferlin, FER1L5, is required for Ca2+-activated acrosome reaction and male fertility”

著者名:Akane Morohoshi, Haruhiko Miyata, Keizo Tokuhiro, Rie Iida-Norita, Taichi Noda, Yoshitaka Fujihara, and Masahito Ikawa

 

※1 先体反応

先体は精子頭部に存在する袋状の構造で、帽子のように頭部を覆っています (図2下)。先体反応によって先体内に含まれる酵素などが放出されます。これにより卵子との融合に必須の分子が露出され、精子と卵子とが受精できるようになります。

 

※2 線虫

線虫には食中毒の原因となるアニキサスなどが含まれます。同じく線虫の一種であるC. elegansはモデル生物としてよく研究に用いられています。哺乳類などの精子とは異なりC. elegansの精子には尻尾がなくアメーバのように運動します。FER-1は精子内の小胞の放出に関与しており、これにより精子がアメーバ運動を開始します (図2上)。

 

詳細はこちら

  • 図1)雌の生殖路内の卵子に到達した精子 (赤色) Fer1l5を欠損した精子では先体反応が起こらず、卵子に到達しても先体 (緑色) が残ったままである。そのため卵子と受精することができない。

  • 図2)精子の変化 線虫精子は活性化し、アメーバ運動を示す。マウス精子は先体反応を起こし、卵子との融合に必須な分子が露出する。