ヒト精子TMEM95が卵に結合して受精融合を促進(伊川研がPNASに発表)

遺伝子機能解析分野のLU Yonggang助教、伊川正人教授らの研究グループは、Stanford大学のTANG Shaogeng研究員、KIM Peter教授らとの共同研究により、ヒト精子上のTMEM95分子が卵と結合を介して受精融合を促進していることを明らかにしました。

 

【研究成果のポイント】

  • 受精融合に必須なヒト精子TMEM95に卵パートナー分子が存在することを明らかにした。
  • TMEM95が卵と結合するのに重要な領域を結晶構造解析と点変異導入実験により同定した。
  • TMEM95抗体がヒト精子とハムスター卵の融合を阻害することを確認した。

 

【概要】

遺伝子機能解析分野は、卵との融合に必須な精子膜タンパク質としてIZUMO1を世界に先駆けて2005年に発見しました。さらに近年、CRISPR/Cas9ゲノム編集マウスを用いたアプローチから、同じく受精融合に必須な精子因子としてFIMP、SOF1、TMEM95、SPACA6、DCST1/2を同定しています。一方、卵にはIZUMO1受容体としてJUNOが同定されていますが、それ以外の受容体は存在の有無すら分かりませんでした。今回、同グループは、結晶構造解析からヒトTMEM95のエクトドメインはαヘリックスバンドルとβヘアピンで構成されていることが明らかにしました。次に、ヒト精子がハムスター卵と融合できる性質を利用して、ヒトTMEM95の構造と機能を調べました。その結果、卵にTMEM95の受容体が存在することを証明し、TMEM95に対するモノクローナル抗体が、ヒト精子とハムスター卵の結合を阻害せずに、融合を阻害することを確認しました。これらの結果は、精子TMEM95が卵の受容体を介して結合しており、この相互作用が受精膜融合を促進する役割を担っている可能性を示しています。本成果は、ヒト不妊症の原因究明、治療法開発に繋がることが期待されます。

 

本研究成果は、米国科学誌「PNAS」に10月4日に公開されました。

タイトル:Human sperm TMEM95 binds eggs and facilitates membrane fusion

著者名:Shaogeng Tang*, Yonggang Lu*, Will M Skinner, Mrinmoy Sanyal, Polina V Lishko, Masahito Ikawa#, Peter S Kim# (*:筆頭著者、#:責任著者)

 

  • (A)結晶構造解析からヒトTMEM95のエクトドメインはαヘリックスバンドルとβヘアピンで構成されていることが明らかにした。 (B) ヒトTMEM95-Fcは透明帯除去ハムスター卵に結合する。 (C) IZUMO1に加えてTMEM95にも卵細胞膜上に受容体があることを示した。