百日咳の咳発作発症メカニズムを解明(堀口研がmBioに発表)
【研究成果のポイント】
- これまで全く不明であった百日咳の咳発作発症メカニズムを解明するために、百日咳の咳発作を再現するマウス咳発症モデルを確立した。
- 百日咳菌の産生する3種類の病原因子が宿主のブラジキニン※1−TRPV1※2経路を活性化することで咳発作を誘発することを発見した。
- 百日咳は、百日咳菌(Bordetella pertussis)がヒトの気道に感染することによって起こる、特徴的な咳発作を伴う呼吸器感染症です。国立感染症研究所によると、2018、2019年には1万人以上の患者が報告されている。
- 本成果により、百日咳の咳発症メカニズムに基づいた咳発作抑制法の開発に繋がることが期待される。
大阪大学微生物病研究所の平松征洋助教、堀口安彦教授(感染症総合教育研究拠点兼任)らの研究グループは、百日咳の咳発作発症メカニズムを世界で初めて明らかにしました。本研究グループは、百日咳における咳発作には百日咳菌の産生する3種類の病原因子が関与することを突き止め、これらの因子が宿主のブラジキニン産生を増強し、TRPV1の興奮感受性を高めることで咳発作が容易に起こる状態を作り出していることを発見しました。百日咳の咳発作発症メカニズムが解明されたことで、その知見に基づいて、患者に多大な負担を掛ける咳発作の抑制法が開発されると期待されます。
本研究成果は、米国科学誌「mBio」オンライン版に3月31日(木)23時(日本時間)に公開されました。
タイトル:“The mechanism of pertussis cough revealed by the mouse-coughing model”
著者名:Yukihiro Hiramatsu, Koichiro Suzuki, Takashi Nishida, Naoki Onoda, Takashi Satoh, Shizuo Akira, Masahito Ikawa, Hiroko Ikeda, Junzo Kamei, Sandra Derouiche, Makoto Tominaga, Yasuhiko Horiguchi
※1 ブラジキニン
炎症性メディエーターの一種で、9個のアミノ酸から構成されている。血漿や組織で産生され、特異受容体を介して血管拡張、浮腫、痛みなどの原因となることがわかっている。
※2 TPRV1
2021年ノーベル医学生理学賞の対象となったTransient Receptor Potential(TRP)の一種であり、温度・化学刺激センサーとして知られている。また、近年では、咳反射経路にも関与することが報告されている。
※3 C57BL/6マウス
BALB/cマウスとともに世界的に広く使用されるマウス系統。
※4 リポオリゴサッカライド(LOS)
一般のグラム陰性細菌の産生するリポポリサッカライド(LPS)に相当する百日咳菌の糖脂質であり、内毒素(エンドトキシン)とも呼ばれる。
※5 Vag8
百日咳菌の産生する病原性関連遺伝子(virulence-associated gene)の一つとして同定された。宿主のC1インヒビターに結合し、その機能を阻害することが最近報告された。
※6 百日咳毒素
標的細胞の三量体GTP結合タンパク質のGiタンパク質(サブユニット)を不活性化することで、Giを介した細胞内情報伝達経路を遮断する。これまで、百日咳においては白血球増多症、ヒスタミン増感などの諸症状に関係することが知られていた。
※7 toll様受容体4(TLR4)
LOS(LPS)の構成成分であるリピドAを認識する受容体。自然免疫の発動に関与する。
※8 C1インヒビター
ブラジキニンの生成過程であるカリクレイン−キニン系を負に制御する因子。第XIIa因子や血漿カリクレインの作用を阻害することでブラジキニンの生成を抑制している。
※9 Giタンパク質
種々の細胞内情報伝達系路のスイッチの役割を果たす三量体GTP(グアノシン三リン酸)結合タンパク質に存在する成分(サブユニット)。Giタンパク質(サブユニット)は細胞内のアデニル酸サイクラーゼを抑制する(Giのiは”inhibitory”の頭文字)ことが知られている。