百日咳菌の壊死毒素が神経毒性を示すことを発見(堀口研がmBioに発表)

本研究所の堀口安彦教授らの研究グループは、百日咳菌の壊死毒素が百日咳症で見られる脳症と同様の症状をマウスで引き起こすことを世界で初めて明らかにしました。百日咳脳症は百日咳患者に稀に見られる続発症のひとつです。その発症率は0.1%〜1%程度ですが、発症した場合は時に死に繋がる病状の重篤化や、予後の後遺症の原因となるため、非常に危険な続発症として知られています。

百日咳の原因となる百日咳菌は、百日咳毒素、アデニル酸サイクラーゼ毒素、壊死毒素などのタンパク質毒素を産生しますが、壊死毒素の病原性について詳細はわかっていませんでした。そこで、壊死毒素が結合する受容体の検索をおこなったところ、中枢神経系に豊富に発現するCav3.1 というT型電位依存性カルシウムチャネル※3が壊死毒素の受容体として働くことを発見しました。一般に、毒素の標的となるのは、その毒素の受容体をもつ細胞であることから、壊死毒素が中枢神経系に作用する可能性を考え、この壊死毒素をマウスの脳室内に投与しました。その結果、脳に毒素を投与したマウスは後肢麻痺などの神経症状を呈し、脳髄液からはIL-6※4やミエリン塩基性タンパク質(MBP)※5が検出されました。このような所見は、百日咳脳症の臨床所見でも報告されています。前述の百日咳菌が産生する他の毒素(百日咳毒素とアデニル酸サイクラーゼ毒素)を同様にマウスに投与しても、神経症状は全く認められませんでした。これらの結果は壊死毒素が百日咳脳症の原因因子である可能性を強く示しています。

 

また、これまでの百日咳脳症の症例報告論文を詳しく調べたところ、6例中4例で抗生物質のβラクタム剤※6が患者に使用されていることがわかりました。βラクタム剤は細菌の細胞壁を破壊して殺菌効果を示します。本研究グループは、βラクタム剤が百日咳菌の細胞壁も破壊し、細菌内に存在する壊死毒素を、活性を保ったまま多量に放出させることも証明しました。

百日咳脳症は、その発症が稀であることから、細菌側と患者側の様々な因子が関係して発症すると推測されています。今回の結果は、壊死毒素が細菌側の重要な因子として脳症の発症に関与していることを示しています。この成果から、壊死毒素の作用を抑えることにより、百日咳患者の脳症を予防・治療する可能性が開かれました。壊死毒素の効果的な制御方法の開発と臨床への応用が期待されます。

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本研究成果は、米国科学誌「mBio」に、3月24日(火)に公開されました。

タイトル:Bordetella dermonecrotic toxin is a neurotropic virulence factor that uses CaV3.1 as the cell surface receptor”

著者名:Shihono Teruya, Yukihiro Hiramatsu, Keiji Nakamura, Aya Fukui-Miyazaki, Kentaro Tsukamoto, Noriko Shinoda, Daisuke Motooka, Shota Nakamura, Keisuke Ishigaki, Naoaki Shinzawa, Takashi Nishida, Fuminori Sugihara, Yusuke Maeda, Yasuhiko Horiguchi

 

 

  • 百日咳菌壊死毒素による脳症発症の仮説