佐藤研の研究成果がNat Commun誌に掲載されました

BIKEN次世代ワクチン協働研究所・粘膜ワクチンプロジェクト(佐藤研究室)では、東京大学医科学研究所の清野宏教授らと共同研究を行い、粘膜面からの抗原取り組み口であるM細胞の機能発現に直接関わる分子として、Allograft Inflammatory Factor 1(Aif1)を同定しました。
全身性免疫では、抗原を補足した抗原提示細胞が輸入リンパ管を通じてリンパ節内に移行し、そこで抗原提示が行われ免疫系が始動します。粘膜免疫における抗原提示は主に粘膜関連リンパ組織(MALT)の中で行われますが、MALTには輸入リンパ管が存在しません。その代わりに、粘膜面、管腔内から直接抗原を取り込む機能を備えています。この抗原取り込みを主として担っていると考えられているのがM細胞です。M細胞の管腔側には、ある種の病原性微生物に対するレセプターを発現しており、それらの細菌の効率的な取り込みに寄与していることが報告されています。しかし、抗原を通過させるトランスサイトーシス(※1)に直接関与する分子群はこれまで報告されていませんでした。
今回の研究グループの研究成果により、Aif1はM細胞のアクチンの動きを制御することで、外来抗原取り込み時に管腔側での細胞膜を変化させていることが示唆されました。また、腸管病原性細菌の一種であるエルシニア・エンテロコリティカは、M細胞の管腔側表面に発現するβ1インテグリンによって認識され、効率よくM細胞から体内に侵入することが知られていましたが、Aif1はこのβ1インテグリンの活性化にも必要であることが明らかになりました。
一過性にAif1の発現や機能をコントロールすることが出来れば、粘膜型ワクチン(※2)の抗原取り込み効率を上げることや、逆にM細胞を介した病原性細菌の侵入を減弱させることで感染予防への応用も期待出来ると考えられます。

(※1)トランスサイトーシス
上皮細胞などが細胞外に存在する物質をエンドサイトーシスにより細胞内へ取り込み、その後反対 側へエキソサイトーシスにより放出する現象。M 細胞では、管腔側から物質(抗原)が取り込まれ、基底膜側へ速やかに放出される。 (※2)粘膜型ワクチン
従来の注射型のワクチンに代わる、粘膜を介して作用するワクチンの総称。注射型ワクチンは体内に侵入してきた病原体に対しては効果を発揮するが、ほとんどの感染症原因微生物の侵入口である消化器や呼吸器、生殖器といった粘膜面においては免疫が誘導されず、無防備な状態である。粘膜型ワクチンの場合は、体内はもとより、粘膜面においても免疫が誘導されるため、病原性微生物の侵入そのものを防ぐこともできる。また、注射針を必要としないため、ワクチン投与時の幼児の負担軽減や誤刺などの医療事故を減らす利点もある。

 

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