結核・肺NTM症の網羅的な菌種同定が検体採取当日に可能に(中村研がJ. Clin Microbiol.誌に発表)

本研究所感染症メタゲノム研究分野 松本悠希 特任助教(常勤)、中村昇太 准教授、大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫内科学 橋本和樹さん(博士課程)、同 福島清春 招へい教員らの研究グループは、大阪刀根山医療センターの木田博 呼吸器内科部長らと共同で次世代シーケンサーを利用した新しい抗酸菌診断手法(NALC-Seq法)を開発しました(左図)。

【研究成果のポイント】

  • 次世代シーケンシング技術※1を用いた新規診断手法「NALC-Seq法」を開発した。
  • 検体採取当日に、180種以上の結核菌および非結核性抗酸菌(NTM)※2を、網羅的かつ亜種レベル※3まで特定可能にした。
  • 従来の同定法は1〜6週間の培養と複数の検査の組み合わせが必要であり、長い場合で約2ヶ月を要していた。本手法は培養を省略し、喀痰から直接同定することで、当日診断を実現した。
  • 診断精度を高めるための検体前処理法(NALC-NaOH法)を特定し、塗抹陽性検体において90.5%という極めて高い正診率を達成した。本手法により、結核やNTM症の患者は、原因菌に応じた適切な治療を速やかに受けることが可能となる。

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本研究成果は、米国の科学雑誌 『Journal of Clinical Microbiology』 に2026年2月27日に掲載されました。

タイトル:Comparison of Culture and Culture-free Methods for Comprehensive Identification of Mycobacteria: A Single-Center Prospective Study

著者名:Kazuki Hashimoto, Kiyoharu Fukushima, Yuki Matsumoto, Haruko Saito, Atsushi Funauchi, Nanako Hamada, June Yamauchi, Tadayoshi Nitta, Daisuke Motooka, Takuro Nii, Takanori Matsuki, Kazuyuki Tsujino, Keisuke Miki, Sho Komukai, Atsushi Kumanogoh, Shota Nakamura, Hiroshi Kida

 

用語説明

※1 次世代シーケンシング技術

全ての生物が持つゲノムDNAはA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の塩基が連なった構造をしています。DNAの塩基配列を解読することはシーケンシングと呼ばれ、近年の技術革新が可能とした多量の塩基配列の同時解読技術を、特に次世代シーケンシング技術と呼びます。

 

※2 非結核性抗酸菌(NTM)

マイコバクテリウム属細菌はグラム陽性細菌に分類される真正細菌の一属で、結核菌など約200種が登録されています。このマイコバクテリウム属の細菌は抗酸菌と総称され、そのうち結核菌群および、らい菌を除いた細菌を非結核性抗酸菌(NTM; Non-Tuberculous Mycobacteria)といいます。これらにより引き起こされる感染症はNTM症と呼ばれ、免疫不全患者だけでなく健常者にも感染し、感染後は自覚的な症状がほとんどないまま長い時間をかけて病状が進行します。発症後は咳・痰・血痰・発熱・食欲不振・体重減少・全身倦怠感などが見られ、抗生物質も効きづらいため、長期の適切な薬剤治療が必要となる難治性の病気です。

 

※3 亜種レベル

生物の分類区分で、種の下位区分。非結核性抗酸菌症の主要な病原菌であるMycobacterium aviumの亜種であるhominissuissilvaticumparatuberculosisなど、近年次々と亜種が発見されています。

 

  • 図1.次世代シーケンサーを用いた喀痰からの抗酸菌直接同定法の確立