バイオインフォマティクスセンター  感染症メタゲノム研究分野/中村研究室

2005年頃から実用化された次世代DNAシークエンス技術は短時間で膨大な遺伝情報を生み出すことを可能とする技術で、ゲノム科学や疾患研究に劇的な変革をもたらしました。感染症メタゲノム研究分野では、微生物学、感染症学、バイオインフォマティクス各分野の専門スタッフが集結し、次世代シークエンサーを用いたゲノム解析やメタゲノム解析による病原体と感染症の理解を目指し研究を展開しています。

 

次世代シークエンス技術の進化は目覚ましく、様々な特質を持った機種が次々と開発されています(図1)。また、次世代シークエンサーはあくまで核酸配列を読むだけであり、得られた膨大なデータに対応し得る解析手法が必要です。次世代シークエンサーの特質を理解した上で適切な機種を選択し、膨大なデータ解析を行うには、微生物学、ゲノミクス、バイオインフォマティクスなど多様な知識が重要です。本研究室ではそれぞれの専門家が協力し、ビッグデータを解析する大型計算機を駆使して研究を進めています(図2)。

 

感染症には、病原性の原因となる分子メカニズムが不明のものが未だ数多くあります。我々は病原体のゲノム解析により病原因子となる遺伝子を同定し、感染症発症の分子メカニズムを解明すべく研究を進めています。また次世代シークエンス技術によって大きく発展した科学分野がメタゲノム科学の分野です。メタゲノムとは、環境中に生息する生物集団に由来するゲノムをひとつの総和として扱う概念です。次世代シークエンサーの登場により、大規模な生物集団のゲノムの網羅的な解析が可能になり、メタゲノム解析は飛躍的に進歩しました。例えば、ある原因不明の疾患に関して、血液や鼻咽頭サンプル中の微生物ゲノムを網羅的に解析できれば、症状の原因となる病原体や、病原因子の遺伝子が同定可能になります。この方法は、従来の病原体特異的な手法とは異なり、一つのサンプルで多数の病原体が検出できる上に、血液、鼻腔サンプル、便など様々な形態のサンプルに適応が可能です。本研究室では、このメタゲノム解析による病原体の検出法と診断法の確立に向けて研究を行っています。

 

我々の研究目標の1つが、ヒトの共生微生物の理解です。ヒトは体内や体外に様々な種類の微生物と共生して生きています。中でも腸内細菌叢は、様々な疾患において重要な役割を果たしていることが明らかになりつつあります。研究室では、様々な疾患や下痢症発症時の腸内細菌叢のメタゲノム解析を行い、細菌叢の変動や、その回復について、ヒトと腸内細菌、病原体の3者間の関係を研究しています。また、病原性微生物がどのように腸管に定着し、病気を引き起こすのかについて、構造生物学アプローチでも研究を行っています。この腸管定着メカニズムを理解し、それを阻害することによって、抗生物質に代わる新たな治療法を開発することも目標にしています。

 

【研究課題】

  1. 微生物のゲノム解析による病原機構の解明
  2. 共生微生物叢のメタゲノム解析による病態理解
  3. 病原因子の立体構造解析
  4. バイオインフォマティクスのソフトウェア開発
  5. 次世代シークエンス技術を応用した解析手法開発

     
  • 図1. 様々な種類の次世代シーケンス装置

  • 図2. ビッグデータ解析に用いる大型計算機装置

メンバー

  • 准教授: 中村 昇太
  • 教授: 飯田 哲也(兼)
  • 教授: 加藤 貴之(兼)
  • 講師: 元岡 大祐(兼)
  • 助教: 福島 清春(兼)
  • 特任助教: 松本 悠希
  • 特任助教: 沖 大也
  • 日本学術振興会特別研究員: 今村 優子

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最近の代表的な論文

  • 1. Variability of macrolide-resistant profile in Mycobacterium avium complex pulmonary disease. Fukushima K et al., Antimicrob Agents Chemother. (2024) 68(11):e0121324 2. Turicibacter faecis sp. nov., isolated from faeces of heart failure mouse model. Imamura Y et al., Int J Syst Evol Microbiol. (2024) 74(5):006379 3. Non-tuberculosis Mycobacterial Pulmonary Disease Caused by Mycobacterium kiyosense, a New Species. Yamada K et al., Intern Med. (2024) 63(13):1913-1916 4. MGIT-seq for the Identification of Nontuberculous Mycobacteria and Drug Resistance: a Prospective Study. Fukushima K et al., J Clin Microbiol. (2023) 61(4):e0162622 5. Structural basis for the toxin-coregulated pilus-dependent secretion of Vibrio cholerae colonization factor. Sci Adv. Oki H et al., (2022) 8(41):eabo3013 6. Longitudinal alterations of the gut mycobiota and microbiota on COVID-19 severity. Maeda Y et al., BMC Infect Dis. (2022) 22(1):572 7. Mycobacterium senriense sp. nov., a slowly growing, non-scotochromogenic species, isolated from sputum of an elderly man. Abe Y et al., (2022) Int J Syst Evol Microbiol. 72(5) 8. Benchmark of 16S rRNA gene amplicon sequencing using Japanese gut microbiome data from the V1-V2 and V3-V4 primer sets. Kameoka S et al., BMC Genomics. (2011) 22(1):527 9. Comprehensive subspecies identification of 175 nontuberculous mycobacteria species based on 7547 genomic profiles. Matsumoto Y et al., Emerg Microbes Infect. (2019) 8(1):1043-1053 10. Interplay of a secreted protein with type IVb pilus for efficient enterotoxigenic Escherichia coli colonization. Oki H et al., Proc Natl Acad Sci. (2018) 115(28):7422-7427