リゾホスファチジン酸がCOVID-19における血管損傷を防ぐことを世界で初めて実証(高倉研と福井大共同研究, Sci. Repに発表)

本研究所情報伝達分野 村松史隆助教、高倉伸幸教授らの研究グループは、福井大学、順天堂大学、東京科学大学との共同研究により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による血管損傷を効果的に抑制する新たな治療標的を発見しました。

本研究成果のポイント

  • COVID-19で問題となる血管損傷に対し、リゾホスファチジン酸(LPA)(注1)が血管保護効果を発揮することを世界で初めて発見
  • 独自開発の3次元血管培養システム(注2)と動物実験により、LPAが炎症シグナルを抑制し血管構造を維持するメカニズムを解明
  • 従来の抗ウイルス薬・抗炎症薬とは異なる血管標的治療の新戦略を提案、Long COVID予防への応用も期待

 

COVID-19では重篤な血管損傷が生じ、多臓器不全や長期後遺症の原因となることが知られています。本研究では、生体内の脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)による血管保護作用が治療に有効であることを世界で初めて実証しました。研究グループは、ヒト血管内皮細胞(注3)を用いた3次元血管培養システムを構築し、SARS-CoV-2感染により破綻する血管構造がLPAにより保護されることを確認しました。さらに、動物モデルを用いた感染実験では、LPA投与により肺組織の炎症と血管損傷が有意に改善されました。そのメカニズムとして、LPAは炎症性サイトカインの産生を抑制し、血管内皮細胞間の接着を強化することが判明しました。この発見は、従来の抗ウイルス薬や抗炎症薬とは異なる治療法を提案するものであり、COVID-19の重症化予防やLong COVID対策に加え、将来の新興再興ウイルス感染症に対する初期治療法としての応用が期待されます。

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本研究成果は2025年7月25日にScientific Reportsに掲載されました。

論文タイトル:"Vasoprotective effects of lysophosphatidic acid inhibit vascular injury caused by SARS-CoV-2 infection"

著者:Fumitaka Muramatsu, Naoi Hosoe, Tatsuya Suzuki, Teppei Shimamura, Yumiko Hayashi, Kazuhiro Takara, Lamri Lynda, Anna Shimizu, Weizhen Jia, Yoshimi Noda, Nobuyuki Takakura, Toru Okamoto, Hiroyasu Kidoya

  • 図1:3次元血管培養システムにおけるSARS-CoV-2感染とLPA保護効果

    (CD31陽性の管腔構造を示す蛍光顕微鏡画像)

  • 図2:LPA投与によるハムスター肺組織の炎症抑制効果

    (H&E染色による組織病理学的解析)

  • リゾホスファチジン酸がCOVID-19における血管損傷を防ぐことを世界で初めて実証(高倉研と福井大共同研究, Sci. Repに発表)