ワクチンや自然感染で生じた抗体から逃れやすいロタウイルスの遺伝子型を特定(小林研がmBioに発表)

本研究所の小瀧 将裕 助教・小林 剛 教授を中心とした、米国バンダービルト大学、タイ国チェンマイ大学、大阪大学日本・タイ感染症共同研究センター、日本大学等から成るチームは、ワクチンや自然感染で生じた抗体から逃れやすいロタウイルスの遺伝子型と、その原因となるウイルスタンパク質の領域を同定しました。本成果は、ワクチンの改良や将来のアウトブレイク予測に貢献することが期待されます。

【研究成果のポイント】

  • 多様な表面タンパク質の遺伝子型を持つロタウイルスを人工的に合成。
  • コウモリ由来のロタウイルスの遺伝子型は、ワクチンや自然感染で生じた抗体を回避しやすいことが判明。
  • 抗体への感受性を決める重要な領域を同定。

【背景と成果】

ロタウイルスは乳幼児に重い胃腸炎を起こし、世界では年間約13万⼈の子どもが亡くなっています。ロタウイルスはヒト以外にも多くの哺乳類に感染し、100種類以上に及ぶ「遺伝子型」が存在しています。このような多様性はヒトにおける流行株やワクチン効果に影響を及ぼすと考えられていますが、その詳細は明らかになっていませんでした。そこで研究チームは、ウイルスの表面タンパク質(VP4あるいはVP7)を入れ替えたロタウイルスを網羅的に人工合成し、遺伝子型ごとの抗体感受性を測定しました。その結果、VP7 の遺伝子型が抗体の効き方を左右する主な要因であり、特にコウモリ由来のロタウイルスの遺伝子型はワクチンや自然感染によって獲得された抗体を回避しやすいことが明らかになりました。さらに、VP7 の特定の領域(ドメイン I)が抗体感受性の決定部位であることも示しました。

本研究により、抗体が効きにくい遺伝子型を事前に特定し、監視体制を強化できる可能性が示唆されました。また、VP7 ドメイン I を標的とすることで、より有効なワクチン設計につながることが期待されます。これらの知見は、ロタウイルスワクチンの改良や将来の流行株を先回りして封じ込めるための重要な基盤となります。

 

本研究成果は、米国科学誌「mBio」(オンライン)に2025年5月30日に掲載されました。

タイトル: “A rotavirus VP4 or VP7 monoreassortant panel identifies genotypes that are less susceptible to neutralization by systemic antibodies induced by vaccination or natural infection”

著者名: Tomohiro Kotaki, Yuta Kanai, Kristen M. Ogden, Megumi Onishi, Kattareeya Kumthip, Pattara Khamrin, Patcharaporn Boonyos, Pornkamol Phoosangwalthong, Phakapun Singchai, Tipsuda Luechakham, Shohei Minami, Zelin Chen, Katsuhisa Hirai, Ratana Tacharoenmuang, Hiroto Mizushima, Hiroshi Ushijima, Niwat Maneekarn, Takeshi Kobayashi

 

DOI: https://doi.org/10.1128/mbio.00897-25