副反応の低減したmRNAワクチンの開発(吉岡研がMol Therに発表)

大阪大学微生物病研究所の吉岡靖雄特任教授らの研究チームは、マウスにおいて、低起炎性の脂質ナノ粒子を用いることでメッセンジャーRNAワクチンの副反応を低減することに成功しました。

【研究成果のポイント】

  • メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは、頻繁に発熱などの副反応を誘発してしまうことから、副反応の低減したmRNAワクチンの開発が急務となっています。
  • 本研究では、mRNAワクチンの成分の一つである脂質ナノ粒子(LNP)を改変した新たなmRNAワクチンを用いることで、マウスにおいて、目的とする免疫応答は強力に誘導しつつ、発熱などの副反応を低減することに成功しました。
  • 本結果はマウスにおける結果であり、今後、ヒトにおいて本mRNAワクチンの有用性を検証していく予定です。

 

大阪大学微生物病研究所/先導的学際研究機構の吉岡靖雄特任教授(薬学研究科/感染症総合教育研究拠点/ワクチン開発拠点先端モダリティ・DDS研究センター/国際医工情報センター/一般財団法人阪大微生物病研究会)、清水太郎特任講師、河合惇志さん(博士後期課程大学院生(研究当時))らの研究チームは、低起炎性のLNPを用いることで、副反応の低減したmRNAワクチンの開発を図りました。その結果、マウスでの検討ではあるものの、

1)東北大学の秋田英万教授らが開発したssPalmOをイオン性脂質として用いたLNP(LNPssPalmO)は、既存のLNPと比較して、炎症性サイトカインなどの産生を誘導しにくいなど低起炎性であること、

2)高病原性H5N1鳥インフルエンザウイルス由来ヘマグルチニンのmRNAを搭載したmRNA-LNPssPalmOワクチンは、既存のLNPを使用したmRNA-LNPワクチンと同等の免疫応答を誘導し、ウイルス感染を効率的に防御し得ること、

3)mRNA-LNPssPalmOワクチンは既存のmRNA-LNPワクチンと比較して、発熱などの副反応を誘導しにくいことを明らかとしました。

本研究成果は、副反応を誘導しにくい、安心して接種可能なmRNAワクチンの開発に大きく貢献するだけでなく、高病原性H5N1鳥インフルエンザウイルスによるパンデミックに対応可能なmRNAワクチン開発にも有用な情報を提供するものです。

 

なお本研究は、東北大学大学院薬学研究科の田中浩揮助教、秋田英万教授、大阪大学微生物病研究所の七戸新太郎助教、渡辺登喜子教授、大阪大学蛋白質研究所、大阪大学薬学研究科、帝京大学薬学部、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所などとの共同研究によるものです。

また本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)、大阪大学感染症総合教育研究拠点 (CiDER)、AMED SCARDA ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点の形成事業「ワクチン開発のための世界トップレベル研究開発拠点群大阪府シナジーキャンパス(大阪大学ワクチン開発拠点)」(JP223fa627002)などの研究支援を受け、一般財団法人阪大微生物病研究会の協力を得て行われました。

 

本研究成果は、米国科学誌「Molecular Therapy」に2024年12月17日(火)に公開されました。

雑誌名:Molecular Therapy

論文名:Low-inflammatory lipid nanoparticle-based mRNA vaccine elicits protective immunity against H5N1 high-pathogenicity avian influenza virus with reduced adverse reactions

著者名:Atsushi Kawai, Taro Shimizu, Hiroki Tanaka, Shintaro Shichinohe, Jessica Anindita, Mika Hirose, Eigo Kawahara, Kota Senpuku, Makoto Shimooka, Le Thi Quynh Mai, Ryo Suzuki, Takuto Nogimori, Takuya Yamamoto, Toshiro Hirai, Takayuki Kato, Tokiko Watanabe, Hidetaka Akita, Yasuo Yoshioka

DOI10.1016/j.ymthe.2024.12.032.