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研究概要

ゲノムホメオスタシスの概念
  ゲノムのもつ遺伝情報が正確に複製され子孫に正しく伝達されることが生物としての最も基本的な条件であり,そのため,ゲノムの情報を守る種々の機構が進化してきた。これらは, DNA 複製時の校正機能やDNA 修復機構に代表されるゲノム情報の安定維持機構である。一方,生物は環境の変化に対応するためにゲノム情報に可塑性を与えるメカニズムも同時に発展させてきた。それは,遺伝的組換えであったり,突然変異の誘発といった現象である。特に,後者のストラテジーは,時には,生物にとって個体の生存との貴重なトレードである場合も多い。しかし,一見危険な方策は,種の発展的存続という進化学的時間スケールから鑑みると,事実有効な作戦であったことは疑いの余地もない。このように,ゲノムの情報は,一義的には安定に維持されるべきものであるのにかかわらず,実は非常に可塑的であり,生物個体におけるゲノムの定常状態は,維持と変化の平衡状態であるといえよう。これを我々はゲノムホメオスタシスと新しく定義した。ゲノムホメオスタシスとは,ゲノムがダイナミックに変化しうることを前提とし,フレキシブルであるにもかかわらず,安定に維持されている状態をさし,これには,生物間で普遍的なメカニズムが関与していることが,近年の研究から明らかになりつつある。

相同組換え機構はゲノムホメオスタシスに特に重要な働きをする
  相同的 DNA 組換えは,生殖細胞が形成される減数分裂時に頻繁に起こり,個体のもつ異なるゲノム情報を再編成し,動的な環境変化に対応できる遺伝的多様性を集団に与えている。一方,染色体上に生じた DNA の二重鎖切断の修復には,相同組換え機構を利用した修復(組換え修復)が必須な役割をはたしている。このように,ゲノムの再編成とゲノム情報の維持という両義性を孕む相同組換え機構は,ゲノムホメオスタシスの中心的命題である。最近の研究から,S期におけるDNA 合成の複製フォークは,予想以上にその進行が阻害されており,そのフォークを再生し複製を再開するには,相同組換え機構が中心的な役割をしていることが明らかになりつつある。その際,細胞の生存と引き換えに,ゲノムの再編成や突然変異を伴う可能性は,組換え機構を利用するというメカニズムの性質上,避けることのできない代償であるが,ゲノムホメオスタシスの分子機構を理解するうえでは,もっとも重要な問題のひとつである。
研究目的
  本領域研究は,新しい概念であるゲノムホメオスタシスの分子機構を明らかにすることを目的としている。ゲノムホメオスタシスは,ゲノム情報の維持と変化を伴うダイナミックな平衡状態であるので,維持機構と変化のメカニズムの両面から解析する必要がある。しかも,それは,DNA トランスアクションネットワークを形成している複雑系であり多面的なアプローチを必要としているが,本領域では,ゲノムホメオスタシスにおいてもっとも中心的な役割をはたしている相同組換え及び関連因子の解析を主要な切り口としてこの問題に取り組む。
研究期間
平成13年度から平成17年度までの5年間とする。