研究成果とサポート

 

2.精子形成にかかわる遺伝子群の特質 

i) 精細胞特異的抗原分子の同定と特質の解析

 精巣は、組織学的に様々な分化段階の精細胞を容易に判別できますが、それぞれの分化細胞の性質を解析するためには、分化段階特異的な抗原を同定する抗体が有用となります。私たちの研究室では、精細胞特異的な抗体の作製とその抗原分子の同定を進めてきました。右図に示すように、各分化段階を特異的に識別することが可能となるモノクローナル抗体を作製し、精子形成の解析に利用可能にしました。さらに、その抗原の同定から、精子形成にかかわる遺伝子の機能解析へと発展させてきました。

⇒抗体の分与等についての問い合わせ先
  微生物病研究所 分子生物寄附講座 西宗義武
  E-mail:
nishimun@biken.osaka-u.ac.jp   


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ii) 半数体精子細胞特異的遺伝子群の単離と特質の解析

 減数分裂を終えて、半数体となった精子細胞は、その後分裂することなく、複雑な形態形成を行い、精子となります。出来上がった精子は頭部、中片、尾部から構成され、父親のゲノムを卵に運び、受精刺激によって、発生の引き金を引くという、精子本来の機能を果たすために特化した極めて合目的的な形態をとっています。すなわち、頭部はゲノムがコンパクトに詰め込まれた小さな“核”と、先端部分の卵子との結合・受精のための装置である“先体”から成り立ち、子宮から輸卵管へと長い距離を移動するための“鞭毛”があり、そしてそれらの間には、鞭毛と頭部とをしっかりと結び付けその動きに重要な役割を果たすかのようにミトコンドリアが巻き付いた“中片”が存在しています。このように、精子形成過程では通常の細胞とは違って細胞質をほとんど捨ててしまい、運動に都合の良い形に変化するわけです。このような形態は精子にだけ見られる特殊なものですから、精巣の精子形成過程の生殖細胞だけでしか発現しない多くの特異的遺伝子が重要な役割を果たすはずです。そこで、私たちは、精子形成および受精に関連性の強いこれらの特異的な遺伝子を網羅的にクローニングして、包括的な解析を進めてきました(右図)。

⇒本研究についての問い合わせ先
 微生物病研究所 感染動物実験施設 田中宏光
 E-mail:
tanaka@biken.osaka-u.ac.jp


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http://www.geocities.co.jp/CollegeLife-Lounge/8516/study.htm

iii) 精子形成関連遺伝子群の構造と発現制御機構の解析

 マウスは私たち人と同じ哺乳動物の仲間です。発生学の教科書を読んだ方ならご存じの通り、典型的な調節的発生を行います。調節的というのは、受精卵の中に分化決定因子が存在せず、分裂した細胞が将来何になるかは、胚の中で細胞が置かれた位置によって調節されるという意味です。生殖細胞も他の体細胞と同じく、もととなる細胞が置かれた場所で、まわりの細胞からの色々な刺激によってできるのであり、ショウジョウバエや線虫でおなじみの生殖顆粒などは存在していません。逆にマウスでは発生初期には将来何にでもなれる分化全能性を持つ未分化胚細胞塊が存在しており、そこからすべての体細胞も生殖細胞もできてきます。マウスの発生は全体で19日かかりますが、発生の3分の1くらいの時期に三胚葉が分化し、その時に胚の後端部に生殖細胞のもとである、始原生殖細胞が現れます。始原生殖細胞は増殖しながら移動し、3日くらいかけて生殖腺にたどりつき、その後、雄は精巣内で精子形成を行い、雌は卵巣内で卵形成を行います。出来上がった、精子と卵は機能的にも形態的にも全く違う細胞です。卵は初期発生に必要な材料をすべて蓄えているので、サイズが非常に大きく、ある条件さえ満たせば、単為発生ができますが、一方、精子は卵を活性化して発生の引き金を引くことと、父親の遺伝情報を卵に運ぶという役割しか持っていません。精子の形態はゲノムDNAをコンパクトに詰め込んだ小さな核と受精のための先体を持つ頭部、長い距離を移動するために発達した尾部、さらに尾部と頭部をつなぎ止めるために存在するかのようにミトコンドリアが巻き付いた中片からなっています。ほとんどが精子特異的な構造で、その形態及び機能には精子特異的な遺伝子群が重要な働きをしているこが予想されます。これらの遺伝子の多くは他の細胞では必要とされず、かえって阻害的な機能を持つため、精巣生殖細胞でだけ発現するように制御されています。また、有性生殖を行う生物は卵と精子の受精という共通の戦略を持ちますが、種を越えた受精は行われないようになっています。従って、現象としては広い生物種に共通であるにもかかわらず、関与する分子は種特異性が高いと思われています。このような特殊な遺伝子はどのようにして成立してきたのか、また精巣生殖細胞でだけ発現するための制御機構について解析してきました。

⇒本研究についての問い合わせ先
 微生物病研究所 感染動物実験施設 野崎正美
 E-mail:
nozaki@biken.osaka-u.ac.jp

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