百日咳の流行兆候を下水から早期に捉える(ゲノム解析室元岡らがEmerging Microbes & Infectionsに発表)

大阪大学微生物病研究所の元岡大祐講師、鈴木孝一朗特任助教(常勤)、大阪健康安全基盤研究所の朝野和典理事長、左近直美主幹研究員らの研究グループは、大阪府内の下水を継続的に調査することで、百日咳菌に関連するDNA濃度の増加を患者報告数の増加よりも早く捉えられる可能性を明らかにしました。研究グループは、大阪府内4か所の下水処理場で2023年4月から2025年7月まで毎週下水を採取し、百日咳菌に関連するIS481※1DNA濃度と、パラ百日咳菌に関連するIS1001※2DNA濃度を測定しました。

【研究成果のポイント】

  • 下水中の百日咳菌関連DNA濃度の上昇が患者報告数の増加より約2か月早く現れることを示した。
  • 従来の患者サーベイランスは医療機関を受診し検査された患者の情報に依存していたが、下水を利用することで、受診や検査に依存せずに無症状者や軽症者を含む地域全体の感染動向を把握できる可能性を示した。
  • 百日咳の流行兆候を下水から早期に捉えることで、医療機関への注意喚起や検査体制の強化に加え、ワクチン接種などの感染拡大に備えた対策をより早い段階で検討できる可能性がある。

 

百日咳はワクチンで予防可能な呼吸器感染症ですが、現在も周期的な流行がみられ、特に乳児では重症化することがあります。一方、患者数に基づく通常の感染症サーベイランスは、医療機関への受診、検査、診断、報告などの影響を受けるため、地域での感染動向の変化が患者報告として表れるまでに時間差が生じる可能性があります。

今回、下水中のIS481 DNA濃度は2024年から明瞭な増加を示し、その上昇は大阪府における患者報告数の増加より早く認められました。時系列解析では、下水中の百日咳菌関連DNAの変化が患者報告より約10週間(約2か月)先行していました。また、異なる解析条件でも、下水のシグナルが患者報告より先に現れる傾向は一貫して確認されました。これらの結果から、下水サーベイランス※3は臨床サーベイランスを補完し、地域の百日咳関連の感染動向の変化をより早く捉える指標となる可能性が示されました。

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本研究成果は、国際科学誌「Emerging Microbes & Infections」に2026年8月19日に公開されました。

タイトル:“Early Detection of Pertussis Related Activity by Wastewater Surveillance of Bordetella pertussis- and Bordetella parapertussis-Associated DNA Concentrations in Osaka, Japan”

著者名:Koichiro Suzuki, Daisuke Motooka, Naomi Sakon, Kazunori Tomono

DOI:10.1080/22221751.2026.2717860

用語説明

※1 IS481

百日咳菌(Bordetella pertussis)のゲノム中に多数存在する挿入配列で、高感度なPCR検出に利用されます。一方、Bordetella holmesiiなど一部の他菌種にも存在するため、IS481のみで百日咳菌を完全に特異的に同定することはできません。

※2 IS1001

パラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)の検出に広く用いられる挿入配列です。本研究では、下水中のパラ百日咳菌関連DNAの時間的変化を評価するために測定しました。

※3 下水サーベイランス

Wastewater Surveillance:WWS。下水に含まれるウイルスや細菌などの病原体由来の核酸を測定し、地域全体の感染動向を把握する方法です。医療機関の受診や個々の検査結果に依存しない集団レベルの感染症監視手法として活用が進んでいます。

 

  • 大阪府における下水中の百日咳菌関連IS481 DNA濃度と患者報告数の推移