寄生虫の狡猾な「脱出戦略」を解明(山本研がNat. Commun.誌に発表)

本研究所の橘優汰助教、山本雅裕教授(免疫学フロンティア研究センター兼任)らは、スイス・ジュネーブ大学、米国・ミシガン大学、徳島大学、愛媛大学と連携した日米欧の国際共同研究により、寄生虫トキソプラズマの細胞脱出機構に関する従来の概念を覆す成果を得ました。宿主細胞の膜破壊は単一因子ではなく、複数のタンパク質が協力して成立することを明らかにしました。

【研究成果のポイント】

  • 寄生虫トキソプラズマ※1が宿主※2細胞を破壊し脱出する際に必須のタンパク質MIC11を発見
  • 寄生虫の細胞脱出は膜破壊タンパク質PLP1単独で成立すると従来考えられてきたが、MIC11との協力が必要不可欠であることを発見
  • 寄生虫の感染拡大に必須である脱出機構の新原理が解明されたことで、トキソプラズマをはじめとする細胞内寄生虫の新規治療法の開発が期待される

 

これまで寄生虫の細胞脱出は、寄生虫から放出されるパーフォリン様タンパク質※3(PLP1)単独で成立すると長らく考えられていましたが、その詳細な分子機構は十分に解明されていませんでした。

今回、研究グループは、in vivo (生体内) CRISPRスクリーニング法※4を用いることにより新規因子MIC11を同定し、このMIC11がPLP1と協力して細胞の膜破壊と寄生虫の脱出を成立させることを解明しました。これにより、寄生虫の脱出機構に関する15年以上支持されてきた従来の説が大きく更新されるとともに、新たな感染症治療法の創出につながることが期待されます。

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本研究成果は、2026年4月4日(土)に英国科学誌「Nature Communications」(オンライン)に掲載されました。

タイトル:“An in vivo fitness gene of Toxoplasma, MIC11, is essential for PLP1-mediated egress from host cells”

著者名:Yuta Tachibana, Xue Gu, Miwa Sasai, Hidetaka Kosako, Eizo Takashima, Daron M. Standley, Vern B. Carruthers, Dominique Soldati-Favre, and Masahiro Yamamoto

DOI:https://doi.org/10.1038/s41467-026-71423-x

用語説明

※1 トキソプラズマ

ネコ科動物を終宿主とする寄生虫で、ヒトを含めた全ての恒温動物に感染可能。初感染の妊婦の場合、胎児や新生児に重篤な先天性障害・奇形をもたらす原因となる。既感染の成人でも免疫不全になると致死的な症状を起こすため問題になっている。

 

※2 宿主

しゅくしゅ、やどぬし。寄生虫に寄生される側の存在(ヒトなど)。寄生されることで病気になったり、栄養を奪われたり、性格や行動に影響を与える可能性が指摘されている。

 

※3 パーフォリン様タンパク質

寄生虫が持つ宿主の細胞膜に穴(膜孔)を開けるタンパク質。ヒトを含めた脊椎動物の免疫系にもパーフォリンタンパク質は備わっており、病原体やがん細胞の膜に穴を開けて殺す役割がある。寄生虫は同様のタンパク質を逆に宿主細胞を殺すために使用している。

 

※4 In vivo (生体内) CRISPRスクリーニング法

従来のin vitro(試験管内)CRISPRスクリーニング法を生体に応用することで、病原体が宿主の体内で増殖する(病気を起こす)ために必要な遺伝子を探索することができる解析手法。

 

  • 細胞内部で増殖した寄生虫は2つのタンパク質を組み合わせて宿主の細胞膜を攻撃・破壊し、細胞外へ脱出して感染を広げる