老化細胞除去薬の効果の再検証:再現性と厳密な評価の重要性(原研がEMBO Reportsに発表)
本研究所分子生物学分野の河本新平准教授(現:東北大学ヘルススパン研究センター教授)と原 英二教授らの研究グループは、熊本大学大学院生命科学研究部の尾池雄一教授らのグループ、公益財団法人がん研究会がん研究所の高橋暁子部長らのグループ、京都大学大学院医学研究科の近藤祥司准教授らのグループ、国立長寿医療研究センターの杉本昌隆部長らのグループ、京都大学大学院生命科学研究科の松田道行教授(現:名誉教授)らのグループおよび国立循環器病研究センター望月直樹所長(現:客員部長)らのグループと、これまで細胞老化を起こした細胞(老化細胞)を選択的に除去する薬剤 「セノリティック薬」 として報告されてきた化合物や抗体について、その有効性を複数の研究機関で独立した検証と共同研究の両面から検証しました。その結果、これらの薬剤が老化細胞を減少させるという従来の報告を支持する結果は得られず、セノリティック薬研究における再現性と実験設計の重要性を示しました。
細胞老化は、がん抑制機構として重要である一方、加齢とともに体内に蓄積し、炎症性物質を分泌するSenescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)と呼ばれる現象を起こすことで、さまざまな加齢性疾患の発症に関与すると考えられています。そのため、老化細胞を除去するセノリティック薬は、健康寿命の延伸を目指す新たな治療戦略として大きな注目を集めています。しかし、社会的関心が高い分野であればこそ、その有効性の評価には特に慎重かつ厳密な検証が求められます。本研究ではこの点を踏まえ、これまでに高いセノリティック効果があると報告されてきたGLS1阻害剤BPTESおよび抗PD-1抗体について ( https://news.web.nhk/newsweb/na/nc-3ee34c57-0da2-4185-89b4-9593a8cd2f3d )、複数の研究機関による連携およびブラインド化された再現実験を実施しました。その結果、これらの薬剤処理ではこれまでに報告があったマウスの肝臓・肺・腎臓における細胞老化マーカーp16INK4aの発現レベルが低下するという結果は確認できず、また外見上の変化や握力などの老化関連機能指標の改善も認められませんでした。さらに、複数の研究機関で独立に行った培養細胞を用いた実験においては、BPTESは老化細胞に特異的に作用するというわけではなく、非老化細胞(コントロール細胞)にも影響を与えることが明らかとなり、選択的な老化細胞除去作用(セノリティック活性)が限定的である可能性が示されました。
本研究の重要な特徴は、異なる研究機関間で独立した検証と共同研究の両面から検証した点にあります。特に解析者を盲検化した厳密な動物実験のデザインにより、加齢マウスにおける個体差や実験者バイアスの影響を最小限に抑えた信頼性の高いデータが得られた点は注目に値すると思われます。
本研究の成果は、これまで報告されてきたセノリティック薬の効果を全て否定するものではありませんが、その解釈には慎重さが必要であること、そして臨床応用に向けてはより再現性の高い厳密な検証が不可欠であることを示唆しています。今後、本研究の成果がより信頼性の高いセノリティック薬の開発に向けた基盤となることが期待されます。
本研究成果は、欧州分子生物学機構(EMBO)が刊行する学術誌 「EMBO Reports」に2026年4月3日に掲載されました。
タイトル: Reevaluating the Senolytic Activity of a GLS1 Inhibitor and an Anti-PD-1 Antibody: Toward Greater Reproducibility and Methodological Rigor
著者:Shimpei Kawamoto, Haruki Horiguchi, Daisuke Torigoe, Masahiro Wakita, Koyu Ito, Sho Sugawara, Xiangyu Zhou, Takumi Mikawa, Jeong Hoon Park, Birte Kristin Jung, Yumiko Okumura, Hideka Miyagawa, Mikako Maruya, Nozomi Hori, Ken Uemura, Masataka Sugimoto, Michiyuki Matsuda, Naoki Mochizuki, Hiroshi Kondoh, Akiko Takahashi, Yuichi Oike, & Eiji Hara
DOI: 10.1038/s44319-026-00740-5






