宿主因子GBF1を標的とする核酸医薬が インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスの増殖を抑制(渡辺研がiScienceに発表)
本研究所分子ウイルス分野 Victoria Simanihurukさん(大学院医学系研究科博士課程4年)、渡辺登喜子教授らの研究グループは、医薬基盤・健康・栄養研究所との共同研究により、インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の両方に共通して必要な宿主因子「GBF1」を同定し、その発現を抑制するアンチセンス核酸(ASO)を設計しました。開発したASOは、複数のインフルエンザウイルス株およびSARS-CoV-2に対してナノモルレベルで増殖抑制効果を示しました。本研究成果は、ウイルスそのものではなく宿主側因子を標的とすることで、複数の呼吸器RNAウイルス※1に作用する核酸医薬の可能性を示したものです。これにより、宿主標的型の広域スペクトル※2を有する抗ウイルス薬の開発が期待されます。
【研究成果のポイント】
- インフルエンザウイルスと新型コロナウイルスに共通して増殖に必要な宿主因子※3GBF1※4を同定
- GBF1を標的としたアンチセンス核酸(ASO)※5を設計・合成し、ナノモル濃度というごくわずかな量で、インフルエンザウイルスおよび新型コロナウイルスの増殖抑制効果を実証
- ウイルスではなく宿主を標的とした核酸医薬による広域抗ウイルス薬の開発に期待
本研究成果は、米国科学誌「iScience」に2026年1月29日にオンライン掲載されました。
タイトル:“Broad-spectrum antiviral activity of antisense oligonucleotides targeting GBF1 against SARS-CoV-2 and influenza viruses”
著者名:Victoria Simanihuruk, Yurie Kida, Kosuke Takada, Harumi Yamaguma, Natsumi Kameoka, Itsuki Anzai, Shintaro Shichinohe, Satoshi Obika, Yuuya Kasahara, and Tokiko Watanabe
用語説明
※1 呼吸器RNAウイルス
主に呼吸器に感染し、RNAを遺伝情報として持つウイルスの総称。インフルエンザウイルスやSARS-CoV-2などが含まれる。RNAウイルスは変異が起こりやすい特徴を持つ。
※2 広域スペクトル
複数の異なるウイルス種や株に対して効果を示す性質のこと。「広域抗ウイルス作用」とも呼ばれる。特定のウイルスのみに作用する薬剤と対比される概念。
※3 宿主因子
ウイルスが増殖する際に利用する宿主(感染された細胞)側のタンパク質や分子のこと。ウイルスは自身の遺伝情報だけでは増殖できず、宿主因子を利用して複製や組み立てを行う。
※4 GBF1(Golgi brefeldin A resistant guanine nucleotide exchange factor 1)
シスゴルジ体(cis-Golgi)に局在するグアニンヌクレオチド交換因子(GEF)の一種で、細胞内の膜輸送を制御する重要なタンパク質。小型GTP結合タンパク質であるARFを活性化することで、ゴルジ体と小胞体間の物質輸送や膜構造の維持に関与する。近年、複数のRNAウイルスがその増殖過程でGBF1を利用していることが報告されている。
※5 アンチセンス核酸(ASO)
標的となるmRNAに相補的に結合する短い人工核酸分子。mRNAに結合することで、その遺伝子の発現(タンパク質の産生)を抑制する。近年、難治性疾患や感染症への応用が進んでいる核酸医薬の一種。






