マラリア原虫の増殖を制御する新たな遺伝子制御機構を解明(岩永研がNat Commun誌に発表)

本研究所分子原虫学分野の西翔講師、岩永史朗教授らの研究チームは、三重大学との共同研究により、転写抑制因子PbAP2-TRが赤内期※1におけるマラリア原虫の生育に必須の役割を担うことを明らかにしました。

マラリア原虫は脊椎動物宿主の赤血球に感染し、増殖サイクルを繰り返すことで病原性を引き起こします。この増殖サイクルの進行とともに、原虫は遺伝子発現パターンを変化させていきますが、その制御機構についてはこれまでほとんど明らかとなっていませんでした。

今回、岩永教授らの研究グループは、モデル生物であるネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)において、遺伝子組換え原虫の作出、ChIP-seq解析および遺伝子発現変動解析などの技術を駆使し、PbAP2-TRの役割を解析しました。その結果、PbAP2-TRは転写抑制因子として働き、赤内期の初期から中期にかけて標的遺伝子の発現を抑制することでその後の生育段階における遺伝子発現パターンの形成を補助していることが分かりました(図)。さらに、MS解析により、PbAP2-TRはマラリア原虫の重要なクロマチンリモデリング因子の一つであるPbMORCをコファクターとしてリクルートすることが示されました。

研究成果のポイント

  • コンディショナル・ノックアウト※2の技術を用いることで、赤内期に必須であるPbAP2-TRのノックアウト表現型を解析
  • ChIP-seq解析とDIP-seq解析※3の組み合わせにより、PbAP2-TRが複数のDNA結合ドメインにより2種の配列を認識することを解明(図)
  • 2種のPbAP2-TR結合配列それぞれのcisエレメントとしての機能を、RNA-seq解析とレポーターアッセイにより詳細に評価
  • ゲノム上でのPbAP2-TRとPbMORCの共局在を、ChIP-seq解析およびChIP-MS解析により証明

 

本研究成果は、「Nature Communications」に、2026年1月3日に公開されました。

タイトル:“Precise gene regulation through transcriptional repression is essential for Plasmodium berghei asexual blood stage development”

著者名:Tsubasa Nishi, Izumi Kaneko, Shiroh Iwanaga, Masao Yuda

 

用語説明

※1赤内期

マラリア原虫が宿主赤血球に感染する時期のこと。宿主赤血球に侵入した原虫はリング期、栄養体期と生育を進め、やがて分裂期において複数のメロゾイト(赤血球侵入ステージ)を形成する。

 

※2コンディショナル・ノックアウト

ある条件下でのみ遺伝子ノックアウトが誘導される仕組み。今回の研究では、ラパマイシン存在下でloxP間の組換えを誘導するDiCreを用いた。

 

※3 DIP-seq解析

DNA結合ドメインのリコンビナントとゲノムDNAフラグメントを混ぜ、結合したDNAフラグメントをNGSで解析することで、そのドメインのDNA結合特異性を調べる手法。