木下研の研究成果がAm J Hum Genetics誌に掲載されました

GPIアンカーは150種以上のタンパク質を細胞表面につなぎ止める働きをする糖脂質である。GPIアンカー型タンパク質(GPI-AP)の生合成や輸送に少なくとも27個の遺伝子が関与している。現在までに27個の遺伝子のうち13種の遺伝子の変異による先天性GPI欠損症(Inherited GPI deficiency, IGD)が報告されている。これらは常染色体あるいはX染色体劣性遺伝の疾患で精神運動発達の遅れ、てんかんを呈し時に高アルカリホスファターゼ血症や臓器の奇形を伴う。この症状は細胞表面のGPI-APの発現が減少する、あるいは異常な構造で発現することにより起こると考えられる。今回我々はジュネーブ大学との共同研究により、GPI生合成にかかわるPIGG遺伝子の変異によって重度の発達の遅れとてんかんを来した3家系を報告した。エジプトとパキスタンの2家系は血族結婚で前者はホモのナンセンス変異(Gln310*)、後者はホモのスプライシング異常(c.2261+1G>C)であった。日本の1家系は片方のアレルが父親由来のミスセンス変異(Arg669Cys)、もう一方のアレルがPIGGを含む2.4Mb のde novoの欠失による複合ヘテロ接合体変異によるものであった。PIGGはGPIの2番目のマンノースにエタノールアミンリン酸を付加する酵素であるが、このエタノールアミンリン酸は前駆体タンパク質がGPIに付加された後にPGAP5によって除かれる(図)。PIGGをノックアウトした培養細胞においてGPI-APは細胞表面に正常に発現するのでこのステップの生体における意義がいままでは不明であった。実際、患者のB細胞株の解析によりいずれの患者においてもPIGGの酵素活性がほぼ欠損していたが、細胞表面のGPI-APは正常に発現していた。今回PIGGの変異によって重度の精神運動発達の遅れを来すことが明らかになり、このステップが脳神経系の発達に極めて重要であることがわかった。