Nat Commun. 6:6255 2015/02/17

ボツリヌス菌(C. botulinum)等によって産生されるボツリヌス神経毒素(BoNT)は、エンドペプチダーゼ活性を持つ蛋白質毒素であり、常に無毒成分(NTNHA/HA)との複合体として産生されます。本毒素を経口摂取して起こるボツリヌス食中毒の発症には、神経毒素が消化管上皮バリアを通過し、血中に移行することが必須ですが、巨大分子である本毒素がこのバリアを通過する詳細な部位および機構については不明でした。本研究において我々は、ヒトに中毒を引き起こすA型ボツリヌス神経毒素複合体の腸管からの吸収機構をin vivoの系を中心に解析しました。その結果、無毒成分Hemagglutinin(HA)を持つボツリヌス神経毒素複合体(L-PTC)がパイエル板ドーム領域(FAE)に存在するmicrofold (M)細胞から取り込まれ、基底膜側へ移行している結果が得られました。また、この過程には毒素複合体中のHAとM細胞上に存在するglycoprotein 2(GP2)との相互作用が重要でした。さらにM細胞の発現を抑えたマウスおよびGP2ノックアウトマウスでは経口投与されたボツリヌス神経毒素複合体に対する感受性が低下することを確認しました。以上の結果より、A型ボツリヌス神経毒素複合体がM細胞を利用することにより腸管上皮細胞バリアを突破し、中毒を引き起こすことが明らかとなりました。本研究成果は、ボツリヌス食中毒の治療法や予防法の開発に貢献すると共に、本毒素の巧妙な体内侵入機構を利用した新しい経粘膜薬物送達システムや経粘膜ワクチンなどの開発への応用にも繋がると考えられます。