J Exp Med. 211(10)2013-32 2014/09/22

トキソプラズマは寄生虫の一種で、エイズや抗癌剤治療下にある免疫不全患者に致死性の脳症や心筋炎を引き起こします。十分加熱されていない肉(レアのステーキや生ハムでも)から感染する以外に猫のふんから感染することも確認されています。妊婦が感染すると流産、新生児の水頭症など先天性疾患の原因になり、わが国でも報告 が増加していますが、トキソプラズマが持つどの病原性因子が局所から全身性に感染拡大に関与するかは全く不明でした。
今回の研究で、本研究所の山本雅裕教授らのグループは、
1)トキソプラズマが宿主細胞内に分泌するGRA6が宿主重要転写因子であるNFAT4を非常に強く活性化する能力を有すること
2)GRA6によって活性化されたNFAT4が、強力な免疫細胞遊走能を有するケモカインを感染局所でさらに誘導し、免疫細胞である好中球が感染局所に呼び寄せられ、トキソプラズマがその好中球に感染すること
3)好中球をまるで「トロイの木馬」のように利用して、トキソプラズマが局所から全身性に感染拡大していることを明らかにしました。
本研究成果は、近年我が国においても症例報告が急増しているトキソプラズマ症に対して、特に感染初期には宿主転写因子NFAT4の活性化経路を阻害する薬剤を使用して全身性への感染拡大を阻止し、トキソプラズマ症の発病を食い止める新たな分子標的治療戦略を提供できるものとして大いに期待できます。