・急性呼吸器感染症の感染免疫病態, ワクチンによる予防
肺炎を含む急性呼吸器感染症(ARI)は先進国、途上国を問わず小児、成人の罹患率の高い疾病で、途上国においては小児の最も多い死因である。肺炎球菌やインフルエンザ菌はその主要な原因菌である。また、呼吸器病原性菌の薬剤耐性頻度は年々進行しており、小児および成人における抗菌薬の適正使用のみならず、現有の肺炎球菌ワクチン接種の普及と新たな肺炎球菌ワクチンの開発が望まれている。
1.小児ARI
我々はこれまでにベトナムにおける小児ARIに関するhospital-based前向き研究を実施し、１）肺炎症例で鼻腔中病原細菌（肺炎球菌、インフルエンザ菌）が高頻度に分離され、その薬剤耐性が進行していること、インフルエンザ菌の鼻腔分離株と髄膜由来株の分子疫学パターンの相違を報告した。現在、肺炎罹患児の呼吸器病原性菌に対する液性免疫を含めた宿主側要因について検討している。
2. インフルエンザ菌に対する肺感染防御誘導機構
インフルエンザ菌による肺感染防御能を誘導するエピトープ分子とその宿主応答機構について、マウスモデルを用いて解析している。
3.現有の肺炎球菌ワクチンの臨床応用と新規ワクチンの開発
a) 23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PV)
これまでに国内で実施した慢性呼吸器疾患を対象とした多施設前向き比較研究において、23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PV)はインフルエンザワクチンとの併用により肺炎予防効果が高まることを明らかにした。現在、我々は高齢者における23価PVとインフルエンザワクチンとの併用による肺炎予防および医療経済効果について前向き比較研究を実施している。今後の23価PVの課題は本邦における65歳以上の成人に対する定期予防接種化（二類疾病）と再接種承認である。
b) 肺炎球菌コンジュゲートワクチン(CV)
アフリカのHIV感染者は肺炎球菌に対して易感染性である。我々はその要因の一つとして、HIV感染者の血漿中HIV-1量と肺炎球菌に対する血清中オプソニン活性が逆相関することを報告した。また、HIV感染者においてはPV接種の効果は低いとされている。そこで、我々は東アフリカ、ウガンダにおいて成人のHIV感染者に対する抗ウイルス療法導入前の対策として、莢膜ポリサッカライドにキャリアー蛋白を結合させたCV接種による血清免疫学的効果を検討している。
c) Pneumococcal
surface protein A(PspA)
PVは多価ワクチンであり、その臨床効果にも限界がある。PspAはすべての肺炎球菌表層に存在するコリン結合蛋白質で、PspAにより誘導された特異抗体は異なる血清型の肺炎球菌株による感染症に対して交叉防御活性を発現する。現在、ハイリスクの乳幼児や高齢者を対象とした安価で効果の高い肺炎球菌ワクチン開発のために、PspAに適した粘膜アジュバント開発を進めている。
・途上国で重要な熱帯感染症の病態, 治療・予防に関する臨床研究
代表的な論文
1. Kurita S, Koyama J, Onizuka S, Motomura K, Watanabe H, Watanabe K, Senba M, Michael A. Apicella MA, Murphy TF, Matsushima K, Nagatake T, Oishi K. Dynamics of dendritic cell migration and the subsequent
induction of protective immunity in the lung after repeated airway challenges
by nontypeable Haemophilus influenzae outer membrane protein. Vaccine,
24:5896-5903, 2006.
2. Watanabe H, Kaji C, Anh DD, Huong PLH, Anh NTH, Huong VT, Phuong HVM,Thi PT, Suu PT, Nguyet NTT, Rusizoka OS, Watanabe K, Nagatake T, OishiK. A comparative molecular analysis of Haemophilus influenzae among childrenless than 5 years of age with acute lower respiratory tract infectionsand meningitis in Hanoi, Vietnam. J Clin Microbiol, 43:2474-2476, 2005.
3. Takahashi H, Oishi K, Yoshimine H, Kumatori A, Moji K,Watanabe K, Nalwoga
H, Tugume SB, Kebba A, Mugerwa R, Mugyenyi P, Nagatake T. Decreased serumopsonic activity against Streptococcus pneumoniae in human immunodeficiency virus-infected Ugandanadults. Clin. Infect. Dis. 37:1534-1540, 2003
