一般財団法人阪大微生物病研究会から大阪大学微生物病研究所への寄附により、2011年度からタイ王国のマヒドン大学熱帯医学部内に、デングワクチン(阪大微生物病研究会)寄附研究部門が発足した。
デング熱は、熱帯地域に広く流行し、1日に約30万人の新たな患者発生が推定される最重要の蚊媒介性ウイルス疾患である。重症型のデング出血熱は、適切な治療が行わなければ致命率が20%に上昇する。しかし、認可ワクチンはなく特異的抗ウイルス剤も確立されていない。ワクチンは最も普遍的な予防手段であり、その開発は急務の課題である。
当研究部門では、(1)デング熱・デング出血熱の発症機序および防御機構を解明する研究、(2)デングウイルスの病原性、伝播や進化に関する研究と共に、(3)種々の戦略によるデングワクチン開発の基礎研究を行っている。具体的には、デング患者血液や分離ウイルスを用いて免疫応答を調べると共に、組換え技術を用いてデングウイルス粒子表面蛋白の機能や免疫原性を解析している。これらの研究により、ワクチンの防御効力を評価する免疫学的指標の推定や質の高いワクチン抗原の作製を目指している。
世界初のデングワクチン効力評価(2012年)の結果、WHOが推奨するVero細胞を用いた中和試験の改良が必要と言われるようになった。我々は、 Fcγレセプターを有するK562細胞を用いたアッセイ系を確立し、防御に関わる抗体価をより正しく表す試みを行っている。デング患者血清を用いると、 上図のようにデング1型ウイルス感染細胞数が対照(103 PFU/ml)より低い中和活性と、より高い増強活性が濃度依存的に示された。そして、 補体依存性と非依存性の両者の抗体の存在が認められた。 | デング1型ウイルスを抗原として作製したマウスモノクローナル抗体は、多くが中和と増強活性の両者を濃度依存的に示したが(NEAb)、 中和活性のみを示す抗体(NAb)や増強活性のみを示す抗体(EAb)も認められた。ワクチン開発を困難にしている障害の1つに増強活性の誘導による重症化の 懸念があるが、NAbを多く誘導するエピトープを持つ抗原が、より安全で効果的なワクチン開発に貢献すると考えている。 |