ゲノムDNAは、放射線や細胞の代謝産物などの外的・内的要因によって頻繁に損傷を受けており、これらの損傷によって引き起こされるDNA複製阻害は、ゲノム不安定性を引き起こす主要な要因であることが明らかになってきている。生物は、このようなDNA複製ストレスに対して働く複数の修復/トレランス経路や損傷チェックポイント機構を進化の過程で獲得、そして発展し、高度に制御された複雑なネットワーク(DNAトランスアクションネットワーク)を形成している。私たちは、出芽酵母及び大腸菌をモデル生物として用い、DNA損傷トレランスと呼ばれる、直接的な損傷の修復をすることなく損傷部位のバイパス機能によって複製阻害の回避を行うメカニズムの解析を行っています(図1)。また、これらDNAトランスアクションネットワークの破綻が引き起こすゲノム不安定性を詳細に解析し、ヒトにおける様々なゲノム不安定性に起因する疾患の分子レベルでのメカニズムを明らかにすることで、それらの生物学的・医学的意義を、統合的に理解することを目指しています。
図1 : 紫外線によるDNA損傷が引き起こす複製阻害に対して働く3つの損傷応答機構。