体外から侵入しようとする感染性病原体に対して最初のバリアーとして機能するのが、体の外面を覆う皮膚と内腔を覆う粘膜である。感染防御の最前線である皮膚と粘膜には未熟な樹状細胞が多数存在するが、これらは感染や炎症により局所リンパ節に移動し成熟した抗原提示細胞となる。抗原提示細胞にその抗原に特異的なリンパ球が遭遇すると、増殖・分化を開始しエフェクターT細胞となる。これらのエフェクターT細胞は皮膚や粘膜に速やかに動員され、感染防御において中心的役割を担う。また、皮膚や粘膜に存在するリンパ球は、アトピー性皮膚炎、乾癬などの炎症性皮膚疾患やクローン病、潰瘍性大腸炎に代表される炎症性腸疾患の病因・病態にも関与する。当研究グループでは、エフェクター/メモリーT細胞の皮膚や粘膜への移動の分子メカニズムやその移動能獲得のメカニズムを明らかにするため、以下の解析を行っている。
(1) セレクチンリガンドPSGL-1の機能の解析
エフェクター/メモリーT細胞の皮膚や粘膜への動員過程において、PSGL-1とケモカインやインテグリンが機能的に連動して作用すると考えられる。これらの分子間の機能的連関のメカニズムを明らかにする。
(2) 新規セレクチンリガンドの探索
エフェクター/メモリーT細胞の動員を媒介する新規セレクチンリガンドを同定し、リガンド活性を示すために必要な糖鎖修飾を担う糖転移酵素群を明らかにする。また、セレクチンリガンドの発現・活性が抗原刺激によりどのようなメカニズムで誘導・維持されるかを明らかにする。
(3) T細胞の皮膚・粘膜への移動能獲得のメカニズムの解析
T細胞が局所リンパ節において皮膚や粘膜への移動能を獲得するメカニズムを、特に樹状細胞との相互作用の観点から解析する。
リンパ球の皮膚や粘膜への局在・動員のメカニズムの理解に基づき、動態を制御する分子群を標的として、感染症や炎症性疾患に対する有効な治療法を開発していきたい。
図1:T細胞の増殖・分化と皮膚への浸潤
皮膚の感染・炎症時には、抗原を担った樹状細胞はリンパ管を経て局所リンパ節に到達し、そこで抗原特異的T細胞を増殖・分化させる。生成したエフェクターT細胞は後毛細管細静脈を経て皮膚に浸潤する。血管外への遊走過程では、セレクチン/セレクチンリガンド、ケモカイン/ケモカイン受容体、インテグリン/インテグリンリガンドなどの一連の分子が連動して作用することが必要である。