病原体の持つ病原性遺伝子が感染対象の宿主細胞において発現されることによって感染症は成立する。感染症の発症機構と病態の理解は、感染症の防御法と治療法の開発に重要である。そのためには、病原体の遺伝子が宿主の細胞中で発現されて病原性を発揮する仕組みだけでなく、宿主側の防御機構についても遺伝子レベルで解析することが必要となる。すなわち、病原体自体の遺伝子(ゲノム)のみでなく、宿主遺伝子(ゲノム)の感染に応答した遺伝子発現パターンの変動を詳細に解析することが求められる。
本センターは、この目的を達成するために国内で唯一の感染症を対象としたDNAチップセンターとして平成16年度に発足した施設である。本施設での研究開発は以下の2つの方向から推進している。
図1 : 高密度超小型DNAアレイ解析システム |
図2 : MS/MS 型質量分析装置 |
(1)DNAチップ(DNA マイクロアレイ)を用いた遺伝子発現の包括的・網羅的な解析:
本センターに設置した高密度超小型DNAアレイ解析システムを駆使してヒト、マウス、感染体などの遺伝子の発現パターンを数万個の遺伝子の発現変動を同時に観察しながら解析する。一色型DNA マイクロアレイ(アフィメトリックス社)および二色型DNA マイクロアレイ(アジラント社)、ジェノパール選抜アレイ(三菱レイヨン社)のいずれについても解析が推進できるような体制を敷いている。トランスクリプトーム解析によって研究対象として絞り込まれた遺伝子については、リアルタイムPCR解析やナノカウンターによって個々の試料における遺伝子発現量の変動を詳細に解析できるシステムも備えている。一方、感染・免疫システムの選択的トランスクリプトーム解析法の開発も本センターの研究テーマのひとつとして推進している。一例として、DNAマイクロアレイ解析を応用して、新たな血液RNA診断システムを構築し、それを難治性血管炎の病因遺伝子解析や診断マーカー同定などに応用するという実用的な研究も展開している。
(2) 質量分析器を用いたタンパク質発現の包括的・網羅的な解析:
遺伝子発現により産生されるタンパク質の包括的な解析も重要な課題である。本センターに設置したMS/MS型質量分析装置を駆使してヒト、マウス、感染体などが産生するタンパク質間の相互作用や修飾動態などの解析を推進する。最近では、質量分析装置を用いた感染症の診断技術などが進んでいる現状を鑑み、最先端の研究に対応できるシステムも備えることで、独自な感染体検知システムの開発も視野に入れて研究を進めている。