当研究分野では、自然免疫による生体防御のメカニズムを、シグナル伝達の観点から個体レベルで解析しています。

1) Toll-like receptor (TLR)ファミリーによる病原体認識、TLRシグナル伝達系路の解析
   TLRファミリー分子は病原体に特異的な構成成分の認識に必須の受容体である。TLRシグナルは炎症に関わる遺伝子の発現を誘導し、その後の免疫応答に重要な役割を果たす。我々は、TLRファミリー分子、そのシグナル分子を同定、さらにそのノックアウトマウスを作製しその解析を行ってきた。その結果、各TLRの認識するリガンドが明らかとなってきた。最近、TLR9は細菌やウイルス由来のCpGモチーフを持つDNAを認識する事が知られているが、更にマラリア原虫による赤血球代謝物であるヘモゾインをも認識している事が解明された。また、TLR近傍で働くアダプター分子、MyD88、TRIF、TIRAP、TRAMがそれぞれTLRシグナル伝達系路において特徴的な役割を果たしている事が明らかとなった。更に我々はMyD88シグナルにより発現が誘導されるIkBzが二段階でIL-6の発現を制御している事を明らかにした。
 
   また、TLRの刺激は炎症性サイトカイン遺伝子発現と共にI型インターフェロン遺伝子の発現誘導も促進する。我々はこのメカニズムとしてTRIF-TBK1/IKK-i-IRF-3経路が重要な役割を果たしている事を明らかとしてきた。更にTLR9リガンドはplasmacytoid樹状細胞においてMyD88とIRF-7の会合を誘導しI型インターフェロンの産生を促す事が明らかとなった。
このようにTLRシグナルはリガンドや細胞ごとに異なった複雑な制御を受けている。我々は更に各TLRの生体内における役割、またそのシグナル伝達機構を解析している。


2) TLR非依存性病原体認識機構の解析
   ウイルスなどの病原体の感染はTLR依存性だけでなく、TLR非依存性機構を介してI型インターフェロン産生などの生体反応を引き起こす。現在までにIRF-3のリン酸化に必要なキナーゼ群、TBK1/IKK-iがTLR依存性だけでなく、非依存性のI型インターフェロンの産生にも必須である事が明らかとなった。このTLR非依存性機構をノックアウトマウスを利用し解析している。

3) C/EBPファミリーの生体防御における機能解析
   C/EBPファミリーはbZIP型の転写因子である。中でもNF-IL6 (C/EBPb)はそのノックアウトマウスの解析からマクロファージにおける細胞内寄生菌の感染の排除に必須の役割を果たしている事が明らかとなってきた。我々は、NF-IL6による感染防御のメカニズムを、マクロファージにおける標的遺伝子を探索し解析を行っている。