環境応答研究部門  細胞制御分野/三木研究室

がんの大半は、体の表面をおおう表皮や管腔臓器の粘膜上皮などの上皮細胞に由来します。正常な上皮細胞は基底膜上に細胞同士が強固に接着した上皮層を形成しますが、悪性化した上皮細胞は元の上皮層から離脱してテリトリーを広げ、さらには血管やリンパ管を介して他臓器へと転移して治療を困難にします。細胞制御分野では、このがん細胞が悪性化していくプロセスについて研究を行っています。

がん悪性化を引き起こすPRLの制御と機能

PRLは悪性度の高いがんに多く発現しており、がん転移を促す分子です。細胞制御分野では、PRLが、CNNM4という細胞膜上でMg2+を輸送するトランスポーターに結合することを見出しました。さらに、PRLが結合するとCNNM4の機能が阻害され、Mg2+が細胞の外に運ばれなくなること、CNNM4遺伝子を欠損させたマウスでは、腸のポリープで上皮層から筋層に浸潤した悪性のがんが多数形成されることも明らかにしました。現在はPRLがCNNM4を阻害することで起こるMg2+調節異常とがん悪性化の関連についてさらに解析を行っています。正常な組織では細胞同士が接着し細胞と組織の形態が保たれていますが、がん組織ではこの細胞同士の接着と相互作用が異常な状態にあることが分かっています。PRLをマトリックスゲル上に培養した細胞に誘導発現すると、周囲を非発現細胞が取り囲んだときにだ
け細胞の形態が大きく変化し、また一部の細胞ではマトリックスゲルに潜り込む様子も観察されました。このことはPRLを発現する細胞としない細胞の間での相互作用に何らかの異常が起こり、その結果として浸潤などの現象が誘発されている可能性を示唆しており、その分子機構の解析を進めています。

腸オルガノイド培養を利用したPRL/CNNMの機能解析

腸上皮組織は生体内を模した細胞外マトリックスのゲルの中で3次元培養する方法(オルガノイド培養)が最近開発されおり、生体内と同様に細胞が分化して単層の組織からなる立体の構築物を作ります。このオルガノイド培養系を利用して、正常な腸上皮組織内での増殖や分化におけるPRL/CNNMの働きや、腸上皮からのがん化における役割について解析しています。
細胞の増殖や生存等に関わる多くのがん遺伝子・がん抑制遺伝子が発見されている一方で、組織構築の変化を伴う浸潤・転移など3次元構築での上皮細胞の形質変化の仕組みはあまりよく分かっていません。上皮組織の中に留まっていた細胞がいかにして組織を離脱するのか、またいかにして隣接する他組織に浸潤してそのテリトリーを広げてゆくのか、残されている多くの謎の解明を目指しています。

  • 図1:遺伝子改変マウスの腸(左)とポリープ部分の組織断面像(右)。CNNM4遺伝子を欠損したマウスでは、ポリープの細胞が悪性化して、筋層に浸潤したがんになっている(矢印)。

  • 図2:遺伝子改変マウス由来の腸オルガノイド培養。CNNM4遺伝子を欠損したマウス由来のオルガノイドでは、形態に異常が生じている。

メンバー

  • 教授: 三木 裕明
  • 准教授: 山崎 大輔
  • 助教: 船戸 洋佑
  • 特任研究員: 橋爪 脩

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最近の代表的な論文

  • (1) Phosphocysteine in the PRL-CNNM pathway mediates magnesium homeostasis. Gulerez et al. EMBO Rep. (2016) 17(12):1890-1900
    (2) Mg2+ Extrusion from Intestinal Epithelia by CNNM Proteins Is Essential for Gonadogenesis via AMPK-TORC1 Signaling in Caenorhabditis elegans. Ishii T., et al. PLoS Genet. (2016) 12(8):e1006276
    (3) Membrane protein CNNM4-dependent Mg2+ efflux suppresses tumor progression. Funato Y., et al. J Clin Invest. (2014) 124(12):5398-5410
    (4) Basolateral Mg2+ extrusion via CNNM4 mediates transcellular Mg2+ transport across epithelia: a mouse model. Yamazaki D., et al. PLoS Genet. (2013) 9(12):e1003983
    (5) Thioredoxin mediates oxidation-dependent phosphorylation of CRMP2 and growth cone collapse. Morinaka A., et al. Sci Signal. (2011) 4(170):ra26
    (6) Nucleoredoxin sustains Wnt/β-catenin signaling by retaining a pool of inactive dishevelled protein. Funato Y., et al. Curr Biol. (2010) 20(21):1945-1952