環境応答研究部門  発癌制御研究分野/岡田研究室

がんは、細胞におこる様々な変異を引き金として発生し、不死化と形質転換という二つの段階を経て悪性化します。不死化ではがん抑止機構であるアポトーシスや老化が回避され細胞は自律的な増殖能を獲得し、形質転換では細胞間コミュニケーションの破綻、細胞形態の変化、浸潤・転移能の獲得など、がんの悪性化形質が現れます。発癌制御分野では、細胞内シグナル伝達系に着目し、がん発生機序の全貌解明を目指して研究を展開しています。

Srcとがん進展

Srcは世界で最初に同定されたがん遺伝子で、細胞膜直下に存在するシグナル伝達分子です。正常組織では細胞同士が強固に結合し形態を保っていますが、がん細胞は図1のように形態が変化し、タンパク質切断酵素や成長因子を分泌して他組織に浸潤・転移します。研究室ではSrcが細胞骨格系を制御するシグナル伝達経路を活性化して、細胞の形態変化や運動能亢進に寄与することを明らかにしました。さらにSrcは、細胞膜を介したシグナル伝達系にも関与し、タンパク質切断酵素などの遺伝子発現を促進してがん細胞の悪性化をうながすこともわかってきました。研究室ではSrcが関わるがんの浸潤・転移、悪性化の機構について、さらに詳細な解析を進めています。

また興味深いことに、Srcは多くのがん遺伝子と異なり、がんにおいて遺伝子変異が見つかっていません。研究室ではSrcが「細胞競合」と呼ばれる細胞同士が競合し勝者が生存するという興味深い現象に関わっていることを最近見出しました。この細胞競合とSrcの関わりを明らかにすれば、がん進展におけるSrcの新たな機能の解明につながることが期待され、現在さらなる解析を進めています。

p18/RagulatorとmTOR栄養シグナルの分子機構

mTORは、細胞内において栄養や成長を担うシグナル伝達分子で、生体の様々な現象に関与しています。研究室ではp18と呼ばれるタンパク質がmTORを制御する分子群をつなぐアダプターのような役割をして、mTOR活性の調節に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。P18によるmTOR調節機構について、タンパク質の構造解析や他のmTOR制御因子との相互作用に着目し研究を進めています。

上記に加えて、ハダカデバネズミを用いたがん防御戦略に関する研究も行っています。ハダカデバネズミは同じげっ歯類であるマウスの10倍近く長く生きますが、その細胞は加齢変化に強く、がんにもなりません。この形質がどのような機構により可能になっているのか、現在研究を進めています。

  • 図1 : CDCP1によるSrc活性化は上皮細胞由来MDCK細胞の集団移動を促進する

  • 図2: mTORC1による栄養シグナル伝達経路とp18-Ragulator複合体

メンバー

  • 教授: 岡田 雅人
  • 准教授: 名田 茂之
  • 助教: 梶原 健太郎
  • 特任助教: 松田 真

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最近の代表的な論文

  • (1) Structural basis for the assembly of the Ragulator-Rag GTPase complex. Yonehara R., et al. Nature Commun (2017) 8:1625
    (2) Polarization of M2 macrophages requires Lamtor1 that integrates cytokine and amino-acid signals. Kimura T., et al. Nat. Commun. (2016)7:13130
    (3) p18/LAMTOR1: a late endosome/lysosome-specific anchor protein for the mTORC1/MAPK signaling pathway. Nada S., et al. Methods Enzymol (2014) 535:249-63
    (4) The novel lipid raft adaptor p18 controls endosome dynamics by anchoring the MEK-ERK pathway to late endosomes. Nada S., et al. EMBO J. (2009) 28:477-89
    (5) The lipid raft-anchored adaptor protein cbp controls the oncogenic potential of c-Src. Oneyama C., et al. Mol Cell (2008) 30:426-36
    (6) Transmembrane phosphoprotein Cbp regulates the activities of Src-family tyrosine kinases. Kawabuchi M., et al. Nature (2000) 404:999-1003