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教室主任からの挨拶

Biken2010 EN

大阪大学微生物病研究所

感染症国際研究センター

臨床感染症学研究グループ

特任教授 大石和徳

 

研究活動内容

当研究グループでは、1)肺炎、侵襲性細菌感染症の疫学と病態、ワクチンによる予防、2)デングの病態、3)病原細菌のタンパク質分泌メカニズムに関する研究、を主要な研究テーマとしています。また、当研究グループは世界保健機関(WHO)/ Global outbreak alert & response network (GOARN)のメンバーとして登録しており、新興・再興感染症アウトブレイク対策に貢献します。

1)肺炎、侵襲性細菌感染症の病態と予防

1.タイにおける肺炎研究

我々は文部科学省「新興・再興感染症拠点形成プログラム」の研究の一環として、タイ拠点での新興呼吸器感染症の監視と二次性肺炎発症機構の解析を実施してきた。本研究の内容は、ウイルス感染に伴って気道上皮細胞上の肺炎球菌レセプターの発現増強と、細菌の定着や増殖が促進されるというこれまで実験的に確立されてきたウイルス-宿主-細菌相互応答の概念を小児肺炎患者の生体内で検証した。また、成人については平成21年度にPhitsanulok県のBuddachinaraj病院において成人のpandemic A/H1N1 influenza関連重症市中肺炎24症例の臨床像を検討した。

2.肺炎球菌ワクチンの臨床応用と新規ワクチンの開発

a) 23価肺炎球菌莢膜ポリサッカライドワクチン(PPV)の臨床試験

我々はこれまでに、PPVとインフルエンザワクチンとの併用接種が慢性閉塞性肺疾患患者の急性増悪の頻度を減少させる効果があることを明らかにした(Vaccine, 2008)。また、我々は786名の65歳以上の成人を対象としたオープンラベル無作為比較研究において、PPVとインフルエンザワクチンとの併用接種が75歳以上の成人において有意に肺炎による入院頻度と医療費を有意に減少させることを明らかにした。さらに、我々は平成19年度から21年度まで高齢者介護施設入所者を対象とした肺炎球菌ワクチン接種事業(厚生労働省)を実施してきた。これらの臨床研究から、我々は日本独自のPPV接種による効果のエビデンスを提示することにより、23PPVの高齢者に対する定期予防接種化(二類疾病)の実現を目指している。なお、平成2110月に23PPVの再接種が承認された。

一方、本邦でも小児を対象とした7価コンジュゲートワクチン(CV)が平成2110月に承認され、小児科医の侵襲性肺炎球菌感染症(敗血症、髄膜炎)の予防に対する関心が高まっている。このような背景から、我々は血清中の血清型特異IgG抗体濃度とオプソニン(OPK)活性の測定依頼に対し、速やかに報告する体制を整備している。また、我が国では成人における侵襲性肺炎球菌感染症、肺炎の実態も未だ不明である。23PPV, 7CVの臨床効果の検証には、血清免疫学的裏付けが不可欠である。

b) 次世代肺炎球菌経鼻粘膜ワクチンの開発
Pneumococcal surface protein A(PspA)はすべての肺炎球菌表層に存在するコリン結合蛋白質で、PspA接種により誘導された特異抗体は異なる血清型の肺炎球菌に対して交叉防御活性を誘導する。これまでに、PspATLR agonistの併用による経鼻粘膜ワクチンで、肺炎モデルにおける菌クリアランス効果を明らかにした(Vaccine, 2009)。また、PspA経鼻粘膜ワクチン接種はインフルエンザウイルス感染後の二次性肺炎モデルにおいても有効であることを明らかにしている。

3. タイで流行するブタ連鎖球菌感染症の研究

ブタ連鎖球菌(Streptococcus suis; S. suis)は重要な人獣共通感染菌であり、感染したブタに曝露されたりや生豚を摂食した人に髄膜炎をはじめとする侵襲性感染症を発症する。とりわけ、北タイでは生豚やその生血を摂食する伝統習慣があり、近年症例報告が急増している。これまでに、我々はタイにおける血清型2による本症の臨床像と本菌のゲノタイプとの関連性を明らかにした。世界的にも報告が少なかった血清型14株のタイ国内におけるクローナルな拡散を明らかにした(図1)。また、我々は現在、阪大微研のタイ拠点プロジェクトとして、タイパヤオ県における臨床疫学研究を展開中である。

2)デングウイルス感染症における血小板減少機序

デングは熱帯地における重要な公衆衛生上の問題である。過去10年間のフィリピンにおけるデング二次感染症の臨床研究の過程から、我々はexo vivoの系で患者由来の血小板のマクロファージによる貪食クリアランスが急性期に一致して亢進する所見を報告した(AJTMH, 2009)。しかしながら、最近実施した高用量ヒト免疫グロブリン療法はデング患者の末梢血小板数に影響しなかったことから(AJTMH,2007)、本症のマクロファージを介した血小板クリアランス機序にはFcレセプターは関与しないことが示唆された。現在、本症における血小板の貪食クリアランスの機序が明らかになりつつある。

3)病原細菌のタンパク質分泌メカニズムに関する研究

細菌感染の成立には、病原細菌の産生する種々の病原因子が大きな役割を担っているが、それら病原因子の多くは主に細菌から分泌されるタンパク質である。そのため病原細菌タンパク質分泌機構や分泌タンパク質の機能を解析することは病原細菌の感染メカニズムを理解する上で重要である。当研究室では食中毒原因菌である腸炎ビブリオや呼吸器感染症原因菌である肺炎球菌の持つタンパク質分泌装置やそれらによって分泌される病原因子の機能について研究をおこなっている。

4)新興・再興感染症対策

WHOは新興・再興感染症アウトブレイクへの対応過程に原因究明をする国際的な情報ネットワークとして、GOARNを、技術や人材を支援できる既存の研究施設を中心に構築しています。GOARNの目的は、感染症の国際的拡散の防止、迅速かつ適切な技術支援の提供、長期間の感染流行に対する備えと能力構築に貢献することです。当研究グループはGOARNメンバーに登録しており、途上国における感染症アウトブレイク発生時の疫学調査、感染コントロールに協力します。

図1:タイにおけるブタ連鎖球菌感染症の感染ルートと病態と血清型14のクローナルな伝播(J Med Microbiol, 2009)


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