マラリアと聞くと,日本に住むかぎりは,過去の病気という印象をうけるが,地球規模で見れば決して衰えることのない脅威を人類に与えつづけており,人類に残された最も重要な感染症の一つといわれている。現在では,流行地域の全域において薬剤耐性マラリアが出現し,マラリアワクチンや新しい抗マラリア剤の開発は緊急の課題である。当分野ではマラリア制圧をめざして,ワクチンや抗マラリア薬の開発を行なうとともに,分子細胞生物学的手法を用いて,マラリア原虫の寄生適応戦略の解析を行なっている。
- レコンビナントSERA蛋白質を用いたマラリアワクチンの開発。
熱帯熱マラリア原虫SERA蛋白質は,赤血球期のマラリアワクチン候補である。大腸菌で発現させたSERA蛋白質(レコンビナントSE47')に対する抗体は,シゾントおよびメロゾイトを強力に凝集させ,さらに,抗体が結合したマラリア細胞は補体によって殺滅される。マラリアの激しい流行地であるアフリカのウガンダの児童でSE47'蛋白質に対する抗体価を測定した結果,マラリアで発熱している児童は抗SE47'蛋白質IgG3抗体を持っておらず,逆に,抗SE47'蛋白質IgG3抗体を持つ児童はマラリアを発症していないことが明らかになった。これらの解析結果をもとにマラリアワクチンの実用化をめざしている。
- 熱帯熱マラリア原虫によるプロスタグランジンの産生と寄生適応
熱帯熱マラリア原虫はプロスタグランジン(PGD2, PGE2, PGF2α)を大量に生産し,しかも培養上清にプロスタグランジンを放出していることを発見した。プロスタグランジンは発熱・睡眠物質であり,また,顕著な免疫抑制効果も持つ。従来,発熱や昏睡といったマラリア症状は宿主であるヒト特有の発症病理によると考えられてきたが,この発見は熱帯熱マラリア原虫が直接プロスタグランジンを生産し,マラリア症状を引き起こしている可能性を示す。一方,プロスタグランジンはマラリア原虫にとって阻害的なヒトのTNF-α合成に対して顕著な阻害効果を持つため,マラリア原虫の寄生適応にとって重要であるかもしれない。
- ドラッグデザインによる抗マラリア剤の開発
本研究では薬剤の標的酵素であるマラリアのDHFR(ジヒドロ葉酸還元酵素)遺伝子を合成し,大腸菌において生産した。単離精製したDHFRを用いて本酵素の阻害効果を測定することにより,種々の葉酸拮抗剤から抗マラリア剤のスクリーニングを行なっている。また得られた知見をもとにコンピュ−タドラッグデザインを行なっている。
- 熱帯熱マラリア原虫の赤血球期における細胞増殖の分子機構
マラリアは,ヒト宿主内においてマラリア原虫が赤血球サイクルに入ることにより発症する。したがって,マラリア原虫の赤血球サイクルにおける細胞増殖分子機構の理解は,マラリア治療のための新規薬剤開発に必要な理論的裏付けとなる寄生虫固有の現象を知るうえで非常に重要である。我々は,赤血球期原虫の細胞増殖にとって必須な血清中因子は,血清アルブミンに結合した限られた組み合わせの飽和・不飽和脂肪酸であることを明らかにした。この血清由来の必須脂肪酸の感染赤血球内に存在する熱帯熱マラリア原虫細胞への取り込みに関与する因子群の同定,ならびにその機能解析,さらには,これら必須脂肪酸の細胞増殖における生物学的役割について解析している
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