正常組織・臓器/器官の構築においては、組織特異的幹細胞による組織細胞の産生が必須であるが、同時にこの幹細胞を中心とした、組織環境の構築がこれら幹細胞システムを維持していく上では重要である。組織環境の要素として、基本骨格をなすのが血管であり、血管構築がなければほとんどの臓器・器官の形成は阻害される。我々の研究室では、このような正常臓器・器官における血管新生と組織幹細胞の幹細胞性の維持機構についての分子機構を解明し、特に病態形成との関わりにおいては腫瘍に注目して、がん幹細胞の発生/増殖/維持のメカニズムと、それを支持する生態学的適所(ニッチ)を解析し、がんを根治する治療法の開発を行っている。研究は大きく分け以下の2項目により実施している。
I. 正常組織およびがん組織における血管リモデリングの分子機序の解明
1) 発芽的血管新生の分子メカニズム (Tie2受容体の活性化、不活性化の分子機構)
2) 成体血管幹細胞の同定と血管リモデリング(CD31陽性side populationにおける幹細胞性因子の発現制御)
3) 動静脈パターニングの解明(ephrinB2/EphB4、apelin/APJ)
4) 血管特異的なドラッグデリバリーシステムの構築
II. がん幹細胞および正常組織幹細胞の組織内維持機構の解明
1) 幹細胞へのリプログラミング機構の解析
2) 幹細胞の分裂を制御するDNA複製因子PSF1およびGalectin-3の機能制御
3) がん幹細胞のニッチ領域のバイオイメージング
4) がん幹細胞維持にかかわるニッチ構成細胞の同定とニッチの破綻
図1 : がん幹細胞の血管ニッチ
腫瘍血管新生抑制剤投与により、腫瘍中心部分の血管は退縮しても、腫瘍周囲の成熟血管は残存する(図左)。このような血管領域では、正常組織において自己複製中の幹細胞分画の細胞に共通して発現するDNA複製因子であるPSF1を発現するがん幹細胞が生態学的適所を形成している(図右)。がん根治のためには、血管ニッチにおける、血管の成熟化機構や、がん幹細胞の生存、自己複製機構を解明することが重要である。
図2 : 腫瘍周囲の血管の成熟化機構
壁細胞の解離した血管より発芽した内皮細胞は、先に低酸素組織内に侵入した造血幹細胞が分泌するangiopoietin-1(Ang1)により、増殖や遊走が誘導されて血管新生が進行する(図上)。血管新生を誘導後、一部の造血幹細胞は、壁細胞に分化して血管構造の安定化に寄与するとともに、造血幹細胞や壁細胞の分泌するAng1は内皮細胞にapelinの分泌を促進させ、内皮細胞に発現する7回膜貫通型のGPCRであるapelinの受容体APJを活性化して、内皮細胞の増殖とともに、内皮細胞の集合を誘導して、血管径を拡大させる(図下)。
図3 : 腫瘍周囲の血管ニッチの破綻
血管成熟化の機構を応用して、腫瘍周囲でがん幹細胞の自己複製を支持している成熟血管の破綻を誘導する治療法の開発を行う。本治療法は、根治が困難ながんの治療法の一つとして期待できる。