循環器系で特異的に発現している疾患に関与する遺伝子について遺伝子組換え動物を含めたモデル動物を利用して分子生物学的解析を行っている。特に、心不全の約半数を占める心左室の拡張不全の病態解明と発症メカニズムの解析を進めるとともに、血管特異的に発現する遺伝子の発現調節機構の解明を行っている。
1) | 食塩感受性高血圧ダールラットを用いて拡張不全の典型的病態モデルケースを作製した。その解析から高血圧患者で増加する血清内因性ジギタリス様物質のNa+/Ca2+ exchanger に対する影響や食塩感受性因子としてカルニチンが心左室線維化の抑制による左室拡張機能の改善により拡張不全の発症が抑制された(3)。また、拡張不全の患者やモデルラットではIL-16の血中濃度が上昇しており、心臓特異的にIL-16を発現させると心左室における線維化と硬化度の上昇がみられ(図1)、IL-16が拡張不全に大いに影響していることを見出した(1)。 |
2) | 血管平滑筋細胞における組織特異的遺伝子発現調節機構の解析をヒト血管平滑筋α-アクチン(SmαA)に関して行い、特異性を重要な作用する領域を同定するとともに(図2)、急性炎症時に一過的に強発現し、病態悪化との相関性がある遺伝子マーカーのSmαA の発現機構とその病変での発現の意義を解析している。 |
図1 α-MHCプロモーター下でIL-16を心臓特異的に強発現させたトランスジェニックマウス(TG)における心臓の肥大化(左図)と心左室における線維化の亢進(右図)を示す。
図2 血管平滑筋α-アクチン遺伝子プロモーターに塩基変異を持つもの(中央と右)は正常(左)に対してマウス胎児で大動脈(Ao)での発現のみが阻害されるので、これらの塩基の両配列が血管組織特異的遺伝子発現に必須である。