当分野では、免疫系、呼吸器系、中枢神経系に感染するウイルスおよびプリオンについて、感染機構から病態解析、その制御法開発、さらには血液製剤に混入したこれら病原体の排除法やウイルス感染症の迅速診断法の開発を行っている。
(1) 免疫系に感染するウイルス
免疫系を標的として、免疫不全を引き起こすHIV感染症、また出血熱を引き起こすデングウイルス感染症について研究を進めている。特に、タイやインドの患者に由来するHIVサブタイプは世界中で最も多くの人が感染しており、その性状解析が急がれている。また、熱帯・亜熱帯地域の最も重要な蚊媒介性のデングウイルス感染症についても、東南アジア臨床分離株の性状について研究している。デングウイルス感染症では、デング出血熱など重症化を招くことも多く、その病態機序の解明から、有効なワクチンや治療薬の開発が望まれている。
(2) 呼吸器系に感染するウイルス
典型的な急性の感染症を引き起こすインフルエンザウイルスについて、ウイルスに対して中和活性を示すヒト型単クローン抗体を作製し、その認識エピトープ領域が高保存性の高次構造を形成する領域であったことから、この高次構造を重視したワクチンの開発を、企業との共同研究として進めている。
(3) 神経系に感染するウイルス
ボルナウイルスは、脳神経細胞に強い親和性を持つRNAウイルスである。ボルナウイルスの特徴は、広範囲な宿主域と細胞核における持続感染である。主に哺乳類に感染性を持つボルナ病ウイルス(BDV)はヒトへの感染も確認されており、機能性精神疾患をはじめとする原因不明の中枢神経系疾患との関連性が示唆されている。当分野では、ボルナウイルスの複製と病原機構に加えて、近年明らかとなった哺乳類ゲノムに存在する内在性ボルナ様N因子EBLNに関する研究を行っている
(4) 血液製剤を介して感染伝播するウイルス
血液や血液製剤の安全性確保のために、これら製剤を介して感染伝播のリスクのあるパルボウイルスB19、SARSコロナウイルス、E型肝炎ウイルス、プリオン等に関する排除法について、企業との共同研究として検討している。
(5) 感染症の迅速診断法の開発
さまざまなウイルス感染症の診断には、蛍光抗体法、ELISA、ウェスタンブロット法などを用いる血清学的手法やPCRを用いる分子的手法が採られている。私たちは、感染症の迅速診断法としてのイミュノクロマト法によるキット開発を企業との共同研究として行っている。
インフルエンザウイルスA/H3N2亜型に属するウイルスを広く中和するヒト型単クローン抗体の認識エピトープとして、ウイルス表面タンパク質HAの高保存領域(赤と緑)を認識していた。同様の高次構造は、H3N2に限らず、他の亜型ウイルスにも存在していたことから、中和抗体を効果的に誘導できる次世代型ワクチン開発に取り組んでいる。
ヒトをはじめさまざまな哺乳動物のゲノムにボルナウイルスのN遺伝子が内在化していた。EBLNと名付けられたこの遺伝子は、霊長類では機能を持つ可能性が示された。