ウイルス免疫分野

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研究内容

 当分野では、免疫系、呼吸器系に感染するウイルスや神経系を異常化するプリオンについて、感染機構から病態解析、その制御法開発、さらには血液製剤に混入したこれら病原体の排除法やウイルス感染症の迅速診断法の開発を行っている。

(1) 免疫系に感染するウイルス
 デング疾患は熱帯・亜熱帯地域の最も重要なウイルス感染症で、蚊媒介性に、免疫系の細胞に感染する。デングウイルスは1型〜4型の血清型に分かれ、2回目に1回目とは異なる血清型ウイルスで感染した場合にはデング出血熱やデングショック症候群など重症化を招くことが多い。感染者は強い中和抗体を産生するが、この抗体の中には、次に感染した、血清型の異なるウイルスに対しては感染増強性に働く抗体も存在すると言われている。この仮説により、ワクチン開発が困難視されている。私たちは、デングウイルスの感染により引き起こされる病態機序の解明、さらにウイルス複製抑制に働く、有効な治療薬の開発を進めている。その評価のために、デングウイルスに感受性の動物モデルの開発も進めている。また、デング患者由来免疫細胞を用いたヒト型中和性単クローン抗体を作製し、これらを用いた病態機序解明と共に抗体医薬の開発も目指している。

(2) 呼吸器系に感染するウイルス
 インフルエンザウイルスは、典型的な急性の呼吸器感染症を引き起こす。季節性インフルエンザウイルスに加え、2009年にブタに由来する新型インフルエンザウイルスが新たに出現し、現在、高病原性鳥インフルエンザウイルスに由来する新型インフルエンザウイルスの出現が懸念され、世界的な関心事になっている。私たちは、アレキサンドリア大学と共同で、エジプトで流行する高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1亜型について研究を進めている。私たちは、近年同国で流行するH5N1ウイルスの中に、ヒト型レセプター糖鎖にこれまでより高い結合親和性を獲得した新しいウイルス群が出現していることを明らかにしている。エジプトにおけるH5N1ウイルス由来パンデミックウイルス出現の潜在性とその機序の解明を試みている。また、インフルエンザウイルスに対して中和活性を示すヒト型単クローン抗体を作製し、これらを用いた抗体医薬の開発を目指している。さらに、香港型インフルエンザウイルスに対して広く中和する単クローン抗体の認識エピトープ領域が高保存性の高次構造を形成する領域であったことから、この高次構造を重視した次世代型エピトープワクチンの開発を、企業との共同研究として進めている。

(3) 血液製剤を介して感染伝播するウイルス
 血液や血液製剤の安全性確保のために、これら製剤を介して感染伝播のリスクのあるパルボウイルスB19、SARSコロナウイルス、E型肝炎ウイルス、プリオン等に関する排除法について企業との共同研究として検討している。

(4) 感染症の迅速診断法の開発
 さまざまなウイルス感染症の診断には、蛍光抗体法、ELISA、ウェスタンブロット法などを用いる血清学的手法やPCRを用いる分子的手法が採られている。私たちは、感染症の迅速診断法としてのイムノクロマト法によるキット開発を企業との共同研究として行っている。

Fig.1

デングウイルスは一本につながったポリプロテインとして産生される。ウイルス粒子の形成のために、10個のタンパク質に切断されることが必須である。デングウイルスプロテアーゼNS3はこの過程に必須のタンパク質であり、CofactorであるNS2Bと複合体を形成し活性を発揮する。従って、NS3とNS2Bとの相互作用を阻害する低分子は、ウイルス複製を阻害する働きをする。

Fig.2

NS2B(フレーム構造)はNS3(緑)のポケット部位と相互作用しており、ピンク部分は、私たちが新たに見出した低分子との相互作用に重要なアミノ酸残基を示している。

Fig.1

デングウイルス感染は強い抗体産生を誘導する。これら抗体には感染制御に働く中和抗体のみではなく、単球/マクロファージに発現しているFcレセプターを介し、抗体依存性の感染増強制を引き起こす抗体も存在すると言われている。感染者由来免疫細胞を用いて作製したヒト型単クローン抗体を用いて、抗体依存性の病態機序の解明に取り組むと共に、効果的な治療用抗体の開発も目指している。

Fig.2

近年エジプトで流行する高病原性鳥インフルエンザウイルスH5N1亜型の中に、ヒトの下部呼吸器上皮にこれまでよりも高い吸着性・感染性を獲得したウイルス群が出現している(写真:赤色がヒトの気管上皮に吸着したエジプト流行株を示す)。同国におけるH5N1ウイルス由来パンデミックウイルス出現の潜在性とその機序の解明を試みている。



fig

(a)典型的なH5N1ウイルスの感染形態。ウイルスが下部呼吸器で複製することで初めて病原性が発揮される。(b)近年エジプトで流行している新しいH5N1ウイルス群による感染形態。これまでより広範な呼吸器部位に対して、より少ないウイルス量で感染が成立しうると考えられる。但し、これまでエジプトにおいて、H5N1ウイルスの個体間伝播は確認されていない。



最近の代表的な論文

  1. Yasugi M, Nakamura S, Daidoji T, Ramadhany R, Yang C-S, Yasunaga T, Iida T, Horii T, Ikuta K, Takahashi K, Nakaya T. Frequency of D222G and Q223R hemagglutinin mutants of pandemic (H1N1) 2009 influenza virus in Japan between 2009 and 2010. PLoS One 2012;7(2):e30946. Epub 2012 Feb 17.
  2. Watanabe Y, Ibrahim MS, Suzuki Y, Ikuta K. The changing nature of avian influenza A virus (H5N1). Trends Microbiol. 2012 Jan;20(1):11-20. Epub 2011 Dec 5.
  3. Watanabe Y, Ibrahim MS, Ellakany HF, Kawashita N, Mizuike R, Hiramatsu H, Sriwilaijaroen N, Takagi T, Suzuki Y, Ikuta K. Acquisition of human-type receptor binding specificity by new H5N1 influenza virus sublineages during their emergence in birds in Egypt. PLoS Pathog. 2011 May:7(5):e1002068. Epub 2011 May 26.
  4. Mizuike R, Sasaki T, Baba K, Iwamoto H, Shibai Y, Kosaka M, Kubota-Koketsu R, Yang CS, Du A, Sakudo A, Tsujikawa M, Yunoki M, Ikuta K. Development of two types of rapid diagnostic test kits to detect the hemagglutinin or nucleoprotein of the swine-origin pandemic influenza A virus H1N1. Clin. Vaccine Immunol.2011 Mar;18(3):494-9. Epub 2011 Jan 12.
  5. Kurosu T, Khamlert C, Phanthanawiboon S, Ikuta K, Anantapreecha S. Highly efficient rescue of dengue virus using a co-culture system with mosquito/mammalian cells. Biochem Biophys Res Commun. 2010 Apr 2;394(2):398-404. Epub 2010 Mar 7.

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