当分野では、細菌の病原因子が宿主細胞機能に及ぼす影響を分子レベルで解析している。現在進行中の研究課題は以下の通りである。
(1) 細菌性タンパク毒素の構造と機能の解析
地球上に存在する毒性物質の中で,細菌性タンパク毒素の毒性は圧倒的に高く、またその作用はきわめて細胞・標的分子特異的である。当研究室では,百日咳菌壊死毒、パスツレラ毒素、ウエルシュ菌エンテロトキシン,大腸菌細胞壊死因子など種々の細菌毒素を材料に用いて、動物,組織,細胞,分子レベルで細菌性タンパク毒素の作用機構を解析している。また、各毒素の機能ドメイン分布解析および立体構造解析をすすめ,両者の成果を併せて毒素の構造と機能の全体像の理解を目指している。
(2) 百日咳病態の解析
百日咳の原因菌である百日咳菌は、ヒトの上部気道に感染して発作性咳嗽を主症状とする病気を起こす。本菌はヒトのみを宿主とするが、この宿主特異性を決定する宿主側要因や細菌側要因は不明である。また発作性咳嗽の発症メカニズムも明らかにされていない。当研究室では、これらのふたつの疑問の回答を得るため、百日咳菌やその類縁菌を用いた動物感染モデルにおける病態を解析している。
図1:多彩な細胞機能に影響を及ぼす細菌毒素
細菌毒素の多くは宿主細胞の重要な機能を修飾することによって効率的に作用を発揮する。すなわち細菌毒素の作用機構の解析は細菌感染病態のみならず動物細胞機能の理解にも役立つといえる。
図2:ウエルシュ菌エンテロトキシンの立体構造 |
図3:百日咳菌(Bordetella pertussis)類縁の気管支敗血症菌(B. bronchiseptica)と類百日咳菌(B. parapertussis)のゲノムサイズと宿主特異性。 |