当研究分野では、病原体と免疫システムとの相互作用から自己免疫疾患の発症機序まで免疫現象を幅広く研究している。特に、免疫細胞の発現する抑制化レセプターと活性化レセプターからなるペア型レセプターが病原体と共に進化してきた免疫制御レセプターではないかとの仮説のもとで、ペア型レセプターとウイルス、細菌、マラリア原虫等の病原体との相互作用の解析を研究している。また、自己免疫疾患は何らかの感染によって誘発されることが多いことから、病原体の感染がどのように免疫システムの恒常性破綻に関与しているかについて研究している。
(1)ペア型レセプターによる免疫制御機構の解明
免疫細胞は、抑制化と活性化レセプターから成る種々のペア型レセプターを発現している(図1)。抑制化ペア型レセプターは、MHC等の自己分子を認識する一方、活性化レセプターは自己分子を認識しない。我々は、ペア型レセプターの中にはウイルス分子を認識するものがあり、ペア型レセプターが病原体に対する感染抵抗性を決定する上で重要な機能を担っていることを明らかにしてきた。そこで当分野では、ウイルスをはじめ、原虫や細菌等の様々な病原体を標的にして、ペア型レセプターが何を認識し、どのような機能を持っているかを明らかにすることによって、ペア型レセプターを介した免疫応答制御機構や宿主病原体相互作用を研究している。
(2)ウイルスの細胞内侵入機構の解明
持続感染をするウイルスには、抑制化レセプターのリガンドを発現し免疫応答を抑制しているものがある。興味深いことに、抑制化レセプターとの相互作用を用いて宿主細胞に侵入するウイルスも存在することが明らかになってきた(図2)。特に、ウイルス側からの解析では解明が難しかった分子メカニズムが、免疫レセプターとウイルス分子との解析によって明らかになってきた。当分野では、種々の病原体の宿主細胞への侵入機構について、宿主分子およびウイルス分子双方の側面からの解明を目指している。
図1 ペア型レセプター |
図2 ペア型レセプターを介したウイルス感染機構 |
(3)自己免疫疾患の発症機序の解明
自己免疫疾患は、自己組織に対して免疫応答が起こる疾患であり、自己免疫疾患の原因遺伝子として主要組織適合抗原(Major Histocompatibility Complex (MHC))、特に、MHCクラスIIがもっとも疾患感受性に関わっている。MHC分子はペプチド抗原をT細胞に提示するのが主要な機能であり、自己免疫疾患の原因はT細胞応答の異常ではないかと長年考えられてきた。しかし、自己免疫疾患を引き起こすペプチド抗原を含めて、MHCがどのように自己免疫疾患の発症に関わるかは依然として明らかでない。我々は、MHCクラスII分子が小胞体内のミスフォールド蛋白質と結合すると、分子シャペロンとしてそれらを分解させずに細胞外へ輸送することを明らかにした。さらに、多くの自己免疫疾患に認められる自己抗体が、自己免疫疾患に感受性のMHCクラスII分子に提示されたミスフォールド蛋白質を特異的に認識することを見出した。これらのことから、異常な分子複合体であるミスフォールド蛋白質/MHCクラスII分子複合体が自己免疫疾患の標的分子として発症に関わっているという新たな自己免疫疾患の発症機序が考えられた(図3)。実際、自己免疫疾患は感染等の炎症によって誘発され、自己免疫疾患の標的臓器ではMHCクラスII分子の異常発現が認められる。そこで、本研究室では、ミスフォールド蛋白質/MHCクラスII分子複合体がどのように形成され、自己免疫疾患の発症に関わるかを解明することによって、自己免疫疾患の発症機序を研究している。
図3 ミスフォールド蛋白質/MHCクラスII分子複合体による新たな自己免疫疾患発症機序
細胞内のミスフォールド蛋白質はMHCクラスII分子と会合すると、MHCクラスII分子によって分解されないまま細胞表面に輸送される (Jiang et al. Int. Immunol. 2013)。さらに、それが自己抗体の標的として自己免疫疾患の発症に関与している (Jin et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 2014)。