当研究分野では、自然免疫による病原体認識と、その活性化調節メカニズムについて研究を行っている。自然免疫は細菌、ウイルス、寄生虫といった感染病原体の初期認識ならびにその後の炎症反応の惹起や獲得免疫の誘導に重要な役割を果たしている生体防御メカニズムである。自然免疫の異常は、免疫不全、敗血症性ショック、自己免疫疾患など様々な疾患の原因となる。自然免疫を司る細胞であるマクロファージや樹状細胞は病原体固有に存在する構造(Pathogen-associated molecular patterns: PAMPs)を認識するパターン認識受容体(Pattern-recognition receptors: PRRs)を発現しており、このPRRsを介して活性化シグナルが伝達される。当研究分野では、自然免疫の複雑な調節メカニズムを解明することを目指している。
1)Toll-like receptor (TLR)ファミリーによる病原体認識、TLRシグナル伝達系路の解析
TLRファミリー分子は自然免疫における病原体の認識に必須の受容体である。TLRシグナルは炎症に関わる遺伝子の発現を誘導し、その後の免疫応答に重要な役割を果たす。我々は、TLRファミリー分子、そのシグナル分子を同定、さらにそのノックアウトマウスを作製し解析を行ってきた。その結果、各TLRの認識するリガンドやシグナル伝達経路を明らかにしてきた(図1)。また、TLRの刺激は炎症性サイトカイン遺伝子発現と共にI型インターフェロン遺伝子の発現誘導も促進する。我々はTLR4やTLR3のシグナル伝達経路において、TRIF-TBK1/IKK-i-IRF-3経路が重要な役割を果たしている事を明らかとしてきた(図2)。更にウイルス感染の際に重要な働きをする形質細胞様樹状細胞において、TLR7やTLR9が発現しており、I型インターフェロンの産生を誘導するシグナル伝達経路を明らかにした(図2)。このようにTLRシグナルはリガンドや細胞ごとに異なった複雑な制御を受けている。我々は更に各TLRの生体内における役割、またそのシグナル伝達機構を解析している。
図1 : TLRによる病原体の認識 |
図2 : TLRのシグナル伝達経路 |
2) TLRアゴニスト、アンタゴニストを用いた研究
TLRを介した自然免疫賦活化作用は非常に強くかつ特異的であるためTLRのアゴニストを利用した抗感染症、抗腫瘍、抗アレルギーまた、ワクチンのアジュバントとして臨床応用が期待されている。しかしTLRの刺激の種類や強さによって自己免疫疾患や敗血症を誘発し、動脈硬化などにも影響を与えることも知られている。そのような異常なTLRの刺激に対しTLRのアンタゴニストを投与することにより自然免疫が関わる疾患の予防や治療を行うことも考えられている。
図3 : 細胞内核酸受容体による病原体認識とそのシグナル伝達経路 |
図4 : TLR誘導遺伝子による炎症応答調節メカニズム |
3) 炎症応答調節メカニズムの解析
自然免疫活性化による炎症応答は様々な機構で適切に調節されている。これまでの研究で、感染に対しTLRシグナルにより発現誘導される分子が、更に炎症応答を正に、負に制御している事が明らかになってきた。例えば、TLRにより早期誘導される核内因子IkBzは転写調節因子として働き、炎症性サイトカイン産生に必要である(図4)。これに対し、RNA分解酵素であるZc3h12aはインターロイキン6(IL-6)などのmRNAを分解し炎症を負に制御している(図4)。Zc3h12aを欠損するマウスは重篤な自己免疫疾患を自然発症する。現在、炎症応答における転写後調節メカニズムに関して研究を行っている。