高倉教授に聞く(2)「血栓はどうやってできる?」情報伝達分野

前回に続き、血管生物学が専門の高倉伸幸教授に、新型コロナと血管の関係を教えていただきます。血栓ができる仕組みも知りたいところです。まずは前回のおさらいも兼ねて、「新型コロナウイルスが体内に入ると何が起こるのか」から聞きました。(聞き手、サイエンスライター・根本毅)

第1回

Q1 新型コロナウイルスが全身に広がるわけ

──新型コロナウイルスが口や鼻から入ると、何が起こるのですか?

 

肺や鼻腔の粘膜細胞の表面には、新型コロナウイルスが取り付くACE2などのたんぱく質があります。そこからウイルスが細胞内に入って内部で増え、周囲の細胞や血管にも広がっていきます。そこで炎症が起きます。

 

呼吸器に炎症が広がったら重症になります。強い炎症が起こらなかったとしても、ウイルスが毛細血管の中に入り、血流で全身に運ばれます。通常は免疫細胞で排除されますが、老化や糖尿病などで弱った血管があると、前回説明したように新型コロナウイルスが入り込むACE2などが血管の細胞の表面に現れているため、それを足がかりに感染してしまいます。全身の弱った血管に感染が広がる恐れがあります。

 

新型コロナウイルス感染症が現れた当初、重症化の際にあまりに急速に多臓器不全が生じることが非常に不思議に考えられていました。その原因の一つは、血管の細胞で増殖し、血流に乗って全身に行けてしまうウイルスの性質にあることが分かってきました。

Q2 血栓ができる理由と組織へのダメージ

──感染した場所ではどんなことが起こりますか?

 

どんどん免疫細胞が集まり、炎症が生じます。すると、免疫反応を起こすサイトカインの働きで血管の透過性が上がり、血液が漏れないように止血の働きがある血小板も入ってきます。他の細胞もいっぱい寄ってきているので、血小板で細胞と細胞が結びつけられて血の塊ができてしまいます。それが血栓となって、他の場所に飛んで血管を詰まらせることがあります。

 

──血栓も新型コロナで問題になっています。脳で詰まると脳梗塞、肺で詰まると肺血栓塞栓症になってしまいます。新型コロナウイルスは全身の組織にたどり着けてしまうし、感染していない場所でも血栓によって間接的に組織にダメージを与えることもある。本当にやっかいなウイルスです。

 

そうです。しかし、血管を早い段階で修復すれば血管の透過性が保たれ、過剰な炎症反応や組織が水浸し状態になることを防げるし、血栓もできなくなって重症化を抑えられます。

Q3 サイトカインストームと後遺症

──血管の透過性が上がることの重大性が分かりました。次に、サイトカインストームについて教えてください。免疫反応を起こすさまざまな物質を総称して「サイトカイン」と呼び、このサイトカインが免疫細胞などから過剰に放出されている状態がサイトカインストームですよね。過剰な炎症反応で組織が破壊されるのですか?

 

細胞を傷つけるサイトカインも出ているので、直接細胞も壊されます。さらに、炎症が強くなると血液成分が外にたまって水浸し状態になり、酸素がうまく運ばれずに細胞が死んでしまう、ということも起こります。

 

──水浸しということは、がんの場合と似た状態ですね。

 

そうです。抗ウイルス薬を飲んでも、ウイルスまで届かない状態になってしまいます。だから、まず血管を修復して正常な状態にし、薬が届くようにする必要があります。血管を正常化する薬を併用すれば、治療効果も高くなると期待できます。

 

──新型コロナは後遺症もひどいと言われています。どのような理由が考えられますか?

 

線維化が起こっているからでしょう。炎症で組織が傷つくと、修復時に線維化することがあります。つまり、コラーゲンなどの成分が異常に蓄積して組織が硬くなり、血管も少なくなっています。すると、酸素が供給されず、筋肉なら筋力低下、肺なら呼吸の機能低下、などの症状が残ります。人の体は線維化を治す機能がそんなに備わっているわけではなく、今の医学では改善は難しい状況です。

Q4 血管の健康を維持するには

──先生のお話で、血管が傷ついていると重症化しやすいと理解できました。では、どうすれば血管の健康を維持できるでしょうか。

 

運動と睡眠、食事などの生活習慣が重要ですね。新型コロナに限らず、認知症を起こす手前では、体のすみずみに血液を運ぶ毛細血管に傷が付いて血流が悪くなっています。骨粗しょう症の手前でも毛細血管異常が起こっています。いわゆる未病という状態です。

 

血管の健康を維持するには、例えば血管の細胞同士の結合に血流がものすごく重要だということは既に科学的に証明されていて、適度な運動で血流を上げることは効果があります。血管は寝ている間に修復されるので、睡眠も大切です。

 

生活習慣病の原因となる糖質や脂質の過剰は血管細胞を傷つけますし、高血圧も毛細血管に負担をかけて傷を付けてしまいます。つまり、生活習慣病を引き起こすとされる高血糖、高脂血症、高塩食を控える食習慣も非常に重要です。

=おわり