高倉教授に聞く(1)「血管の異常で新型コロナが重症化?」情報伝達分野

大阪大学微生物病研究所は今、約30ある研究室のほとんどが何らかの形で新型コロナウイルス研究に取り組んでいます。そのひとつ、情報伝達分野高倉伸幸教授の研究グループは、従来から進めるがん分野の研究を新型コロナ研究に応用しているそうです。実は、がんと新型コロナは「血管の異常」というキーワードで結びつけられるのだとか。どういうことなのでしょう。高倉教授に聞きました。(聞き手、サイエンスライター・根本毅)(2020.9.9 インタビュー)

第2回

 

情報伝達分野 高倉伸幸教授

Q1 血管の異常とは?

──高倉教授の従来からの研究について教えていただけますか?

 

私たちの専門は、大きな枠で言うと分子発生生物学。その中の幹細胞医学や血管生物学という分野です。がん組織は、がん細胞だけでなく免疫細胞などさまざまな細胞が集まってできていて、血管も重要な構成要素です。私たちはがん組織の血管がどのように作られ、がんという病気にどのような影響を与えているのかに着目して研究を進めています。

 

詳しく説明します。正常な組織は組織内より血管内の方が圧力が高く、血液中の物質は圧力の高い方から低い方へ、血管から組織へと流れます。しかし、がんの中の血管は通常、未成熟で、血管を作る壁がしっかりとできていないため、非常に漏れやすくなっています。血液が漏れ出てがん組織内が水浸し状態になり、血管が圧力を保てなくなっています。この状態を専門的な言葉で「血管の透過性が亢進している」と言います。

Q2 漏れやすい血管で起こる問題

──「血管の透過性が亢進している」とどうなるのでしょう。

 

こうなってしまうと、血管を通じて抗がん剤を運ぼうにも、がん細胞には届きません。砂漠に水をまいたらさーっと入っていくのに、砂が水を多く含んで水たまりができた状態だともう入っていかないのと同じです。

 

──抗がん剤が届けばがん細胞をやっつけられるのに、既に周囲が水浸しだから抗がん剤が入っていかないということですね。

 

そうです。試験管の中でがん細胞をほぼ100%殺せる抗がん剤が、実際には人の体で効かないことが多くあります。薬が届いていないのが、大きな原因のひとつ。もちろん届いて効く人もいますが、がんが小さくなっても芯が残っていたりする場合は、薬が届いていないと考えられます。

 

──漏れやすくなっている血管の異常を正常化すれば、抗がん剤も効くようになりますね。

 

漏れやすくなっている未成熟な血管は、血管の壁を作る細胞同士の間が開いています。血管が成熟する仕組みを調べ、それを応用して薬を開発しています。がんの中にはたくさんの毛細血管が入っていて、すべてを成熟させれば血管の圧力を保つことができ、抗がん剤を届けられるようになります。

Q3 がんと血管の研究と新型コロナ研究のつながり

──その研究が、どのように新型コロナ研究につながるのでしょう。

 

血管の細胞が開いて漏れやすくなる、すなわち透過性が上がるのは、がんだけでなく炎症でも起こります。炎症は免疫反応です。ウイルスなどの外敵が体内に入ると、排除するためマクロファージや好中球などの免疫細胞が出動しますが、免疫反応を起こす「サイトカイン」というたんぱく質も分泌され、この働きで血管の透過性を上げて、血管から組織へと免疫細胞を移動しやすくしています。

 

それだけならいいのですが、新型コロナではサイトカインが過剰に放出される「サイトカインストーム」が生じ、全身で炎症が起きて重症化することがあります。免疫の暴走です。血管の透過性も大きく上がってしまい、血液成分が漏れて肺水腫などに至ります。肺水腫は呼吸障害をもたらします。これを食い止めるには、透過性の異常を正常に戻すことが重要です。がんでやっていた血管正常化の研究を、新型コロナの重症化を食い止める研究に応用しているわけです。

Q4 傷ついた血管を直そうとする仕組みが重症化へつながる?

─どんな実験をしているのですか?

 

私たちの研究グループは、血管の内側を覆う「血管内皮細胞」という細胞に新型コロナウイルスが感染すると、血管の構造がどのように異常になるかを調べています。試験管内での実験です。

他の研究グループの報告によると、重症化した患者さんのいろいろな場所の組織で血管内皮細胞にウイルスがたくさん感染し、その周りで強い炎症が起きていました。血管内皮細胞の表面にはACE2とニューロピリン1という2種類のたんぱく質があり、新型コロナウイルスが取り付いて感染することが分かっています。

 

──ウイルスの表面に飛び出たたんぱく質が結合するたんぱく質ですね。

 

実は、この2種類のたんぱく質は傷ついた血管を治そうとする時に増えることが分かっています。お年寄りや糖尿病患者は重症化しやすいのですが、そういう方の血管は老化や高血糖で傷ついています。傷ついた血管は細胞表面にACE2やニューロピリン1が増えているので、ウイルスが取り付いて細胞の中に入りやすい状態なのです。弱った血管を狙って入ってくるいやらしいウイルスです。

 

ウイルスが感染すると炎症が起こり、どんどん透過性が上がり、さらにウイルスが入ってきて、感染のホットスポットになってしまいます。したがって、血管を早め早めに修復してあげれば良い。細胞と細胞の接着を強めて修復できれば、血管の透過性が下がり、ウイルスが組織に入らないようなバリアにもなります。

Q5 血管正常化の薬の開発について

──血管を正常化する薬が新型コロナにも有効かもしれないですね。開発は進んでいるのでしょうか。

 

血管の透過性を正常にする薬は、がん治療での実用化に向けてベンチャーを設立し、臨床試験(治験)の準備を進めています。うまく行けば来年にも治験に入る予定です。新型コロナ感染症でも使えるのではないかと着目して研究を進めています。


=つづく。

次回は血栓ができる仕組みを説明していただきます。

また、血管と新型コロナについてもっと知りたい方は、「Q3-4. なぜ血管に症状が出るの?」をどうぞ。