松浦善治教授に聞く(2)「新型コロナのワクチンはいつできるのか」分子ウイルス分野

Q1 今回は、新型コロナウイルスのワクチンについてお尋ねします。

大阪大学微生物病研究所で新型コロナウイルスの研究やワクチン開発に取り組む松浦善治教授分子ウイルス分野)が疑問に答えるインタビュー。前回に続き今回のテーマはずばり「ワクチンはいつできるのか」。(聞き手、サイエンスライター・根本毅)(2020.9.8 インタビュー)

全3回: 第1回 第3回

Q2 ──ワクチンはいつできるのでしょう。

残念ながら、それについては言えません。答えがありません。

 

──そうですか……。

 

安全性や有効性をきちんと調べる必要があり、安全性と有効性が確認できなければ開発はストップします。だから、いつできるとは言えないのです。 ただ、世界中でさまざまなワクチン開発が進められています。DNAワクチンやRNAワクチンといった核酸ワクチンは新しい技術で、日本や米国など何社かが先行して取り組んでいます。最も簡単に作れるため期待されますが、これまで核酸ワクチンの効果が実証されたことはなく、本当に有効かどうかはこれからです。 次に、組み換えウイルスワクチン(ウイルス・ベクター・ワクチンとも)があります。臨床試験が一時中断されたアストラゼネカのワクチンはこのタイプです。

Q3 ──どんな種類のワクチン開発を進めていますか?

──大阪大学微生物病研究所(微研)と一般財団法人・阪大微生物病研究会(BIKEN財団)は共同でワクチン開発を進めていますね。

 

BIKEN財団にはワクチン開発のノウハウがあり、従来の方法で着実に開発しようと考えています。複数の方法を進めていて、ウイルスの殻だけで遺伝子がないVLP(ウイルス様粒子)ワクチン、ウイルスから毒性をなくした不活化ワクチン、薬剤で変異を起こしてウイルスを弱毒化した生ワクチン、に取り組んでいます。従来の方法だけではなく、組み換えウイルスなど新たな手法開発も検討しています。 このように、考えられることはすべてやっています。

 

──ワクチンがいつできるかは言えないが、全力で取り組んでいるということですね。

 

私たちは今まで蓄積したノウハウを使い、全力で着実に取り組んでいます。やれることは全部やり、ある時点で有望なワクチンに絞ることになります。

Q4 ──ワクチンができない可能性もあるのでしょうか。

十分あります。世界のワクチン開発の歴史では、ワクチンの候補を打ってかえって悪くなった例や、小児が亡くなったという例などがあります。ワクチンは元気な人に打つわけですし、怖いんですよ。知らない人は「早く」と言いますが、ワクチンを知っている人は慎重にならざるを得ません。

Q5 ──ワクチンができたとしても、免疫力が下がっているお年寄りには効果が薄いということもあり得るのでは?

あり得ます。新型コロナウイルスからまず守らなくてはいけないのは、お年寄りと医療従事者です。お年寄りを守れるワクチンができるかどうか、開発してみないと分かりません。

 

──そういうことは、私たちは知っておいた方がいいですね。

 

そうですね。バラ色のことばかり言われますが、ワクチン開発はそんなに簡単ではありません。人に接種して安全性と有効性を確認する臨床試験まで進んでも、うまく行くのは1割程度じゃないでしょうか。マウスやサルでものすごく効いたけど、人で試験をしたら全く効かなかった、という例がたくさんあります。 新型コロナウイルスの感染拡大が早期に収束し、ワクチンを使わなくて済むというのがベストなシナリオです。

Q6 ──新型コロナウイルスは夏にも流行しましたが、これから訪れる冬にさらに流行するのでしょうか。

──コロナウイルスなどが引き起こす風邪は主に冬に流行します。インフルエンザも冬。新型コロナウイルスはどうでしょうか?

 

冬は閉鎖して密になりやすく、流行する可能性は高いと思います。警戒を強めた方がいいです。新型コロナウイルスは唾液に多く含まれるので、感染者の周りにはウイルスがベタベタいると思います。 私たちは研究のために新型コロナウイルスを扱っていますが、びっくりするくらい増えるんです。一般にウイルスは増やすのに苦労するものなのに、新型コロナウイルスはインフルエンザウイルスやC型肝炎ウイルスの1000倍くらい増える。その点で、インフルエンザや風邪とは違います。

 

──夏にウイルスが減るのは、高温多湿と紫外線に弱いからだとネットで見ました。

 

そんなに単純な話ではないでしょう。夏だってアデノウイルス(咽頭結膜熱の原因ウイルス)に感染します。紫外線ががんがん当たったらウイルスは死ぬでしょうけど、屋内で紫外線は強くありません。

Q7 第3回に続きます。